「好きだよ」
そう口にしながら、俺はナタリーの身体を横たえた。
ずっと抑えてきた。
俺は、あんまりナタリーのことが好きだから、一度彼女に触れてしまったら、めちゃくちゃにしてしまいそうで怖かったから。
だけど、それは、ロルフに奪っていいと判断させるためではなかった。
彼女を奪われるためではなかった。
全てかき消してやる。
ロルフにキスされたことなんて、すぐに忘れさせてやる。
そのくらい激しいキスをしたかった。
ほの暗い星が、ナタリーの髪を薄く照らしていた。
涙が止まらない。
嗚咽を必死に抑えようとするが、叶わない。
神様・・・
いっそ、この命が消えてしまえばいいのに。
いっそ・・・私なんか、このまま消えてしまえたらいいのに。
愛されていると思っていた。
両親ともに健在で、姉と弟がいて、幸福な家庭を絵に描いたように幸せだった。
愛されることが当然だった。
愛することは自然なことだった。
だから、同じ教室で共に学ぶ中で、ごく自然にロルフに恋をした。
軽薄な雰囲気も、魅力的だった。
自分にないものばかり持っているロルフは、素敵だと思った。
付き合おうといわれた時は、本当に嬉しかった。
華やかな女の子たちを虜にするあのはしばみ色の瞳が、自分に向けられるのだというだけで、胸が高鳴った。
でも、それは、全て嘘だった。
私は、利用されていただけ。
私が彼を愛しただけ。
私が知らないふりをしていただけ。
気づいていたのに、愛されているふりを通しただけ。
恋は、ここまで人を愚かにさせる。
恋は、ひどく厄介だ。
ときに拙く、ときに儚く、ときに切なく、ときに狂おしい。
優しさをくれることも、悲しみを与えることも、星の数ほどある。
それが恋だ。
好きという感情は、ときに扱いづらい。
自在に扱うことすらままならないことだってある。
どれだけ傷ついただろう?
どれだけ苦しんだだろう?
あぁ・・・なのに、私は・・・
まだあの人の笑顔を嫌いになれてない。
まだ・・・まだ、好きだ。
好きで、好きで、仕方ない。
怖いくらい、全てが消えてくれない。
まだ、鮮明だ。
ぞっとするほど鮮やかだ。
息が苦しくなる。
私は、ロルフを愛した。
自分の全てを懸けて。
そのことを、うまく後悔できない。
彼を、うまく嫌いになれない。
悔しいけど、苦しいけど、一生背負っていきたいと思ってしまう。
消えてほしくないと、そう思ってしまう。
「ロル・・・フ・・・」
足が止まった場所にしゃがみ込み、顔を覆う。
ただ、ただ悲しい。
寒い。
体の芯まで冷えていく。
思わず、腕をさすった。
すると・・・
「・・・バ、カ野郎」
低い囁きとともに、ふわりとした感触が肩を包んだ。
「バカ野郎、寒いなら、寒いって言えよ」
低く息を切らせながら、ロルフが私の目を覗き込む。
「背負うなら、俺も一緒だよ」