もういいだろう?
感情が吹っ切れても、理性が言うことを聞かなくなっても。
ただ本能のままに、愛する人をかき抱く。
「え・・・!?あ、え、ちょ、ちょっと、あ、え、あ、アレン・・・!?」
声を上げるナタリーの口をキスでふさぐ。
「あ、アレン・・・」
「全部俺のものにしたい」
「そんな、アレンじゃないみたいなこと・・・」
「全部俺だよ。君が知らなかっただけさ」
深く口づける。
「マルゴ王妃の夫の名前は知ってるか?」
「夫・・・?」
「アンリって言うんだぜ」
「アンリ・・・あ!」
「こちらの国で言うところのヘンリーだろ?」
口説き文句としては、ちょっと飾りすぎているだろうか。
「マルグリットの夫は、ヘンリーにしかなりえないんだよ」
「好きだよ」
そう口にしながら、俺はナタリーの身体を横たえた。
ずっと抑えてきた。
俺は、あんまりナタリーのことが好きだから、一度彼女に触れてしまったら、めちゃくちゃにしてしまいそうで怖かったから。
だけど、それは、ロルフに奪っていいと判断させるためではなかった。
彼女を奪われるためではなかった。
全てかき消してやる。
ロルフにキスされたことなんて、すぐに忘れさせてやる。
そのくらい激しいキスをしたかった。
ほの暗い星が、ナタリーの髪を薄く照らしていた。
涙が止まらない。
嗚咽を必死に抑えようとするが、叶わない。
神様・・・
いっそ、この命が消えてしまえばいいのに。
いっそ・・・私なんか、このまま消えてしまえたらいいのに。
愛されていると思っていた。
両親ともに健在で、姉と弟がいて、幸福な家庭を絵に描いたように幸せだった。
愛されることが当然だった。
愛することは自然なことだった。
だから、同じ教室で共に学ぶ中で、ごく自然にロルフに恋をした。
軽薄な雰囲気も、魅力的だった。
自分にないものばかり持っているロルフは、素敵だと思った。
付き合おうといわれた時は、本当に嬉しかった。
華やかな女の子たちを虜にするあのはしばみ色の瞳が、自分に向けられるのだというだけで、胸が高鳴った。
でも、それは、全て嘘だった。
私は、利用されていただけ。
私が彼を愛しただけ。
私が知らないふりをしていただけ。
気づいていたのに、愛されているふりを通しただけ。
恋は、ここまで人を愚かにさせる。
恋は、ひどく厄介だ。
ときに拙く、ときに儚く、ときに切なく、ときに狂おしい。
優しさをくれることも、悲しみを与えることも、星の数ほどある。
それが恋だ。
好きという感情は、ときに扱いづらい。
自在に扱うことすらままならないことだってある。
どれだけ傷ついただろう?
どれだけ苦しんだだろう?
あぁ・・・なのに、私は・・・
まだあの人の笑顔を嫌いになれてない。
まだ・・・まだ、好きだ。
好きで、好きで、仕方ない。
怖いくらい、全てが消えてくれない。
まだ、鮮明だ。
ぞっとするほど鮮やかだ。
息が苦しくなる。