「何が起こったんですかっ!?」
キャプテンのデイヴィッドがものすごい形相で叫ぶ。
ヘンリー先生も、大声で答えた。
「国境から、敵軍が入った!寮を奪って、この学院を襲うつもりだ」
「敵軍・・・」
まさか・・・俺たちの国が・・・
この国を、この学校を、壊そうとした?
「寮を奪うって・・・」
「まだ残ってる生徒がいるんじゃないですかっ!?」
周囲で、仲間たちが怒鳴る。
アランに、マルセル、マックス、エミール・・・
そうだ・・・
寮には・・・
まだ低血圧の恋人がいるかもしれない。
「おい、アレンッ!?」
俺の名を呼ぶ誰かの声を聞きながら、俺は、校舎とは逆方向へ駆けだした。
愕然として走ることすら出来ない私の手を引き、校舎まで連れてきたのは、ナタリーだった。
敵であるはずの、ナタリーだった。
何という皮肉だろう。
祖国の兵に攻撃され、敵と呼ばれる相手に助けられるなんて。
がくがくと足を震わせ、嗚咽を漏らすナタリーは、彼女らしくない弱さを見せていた。
気丈で、優しく、友達想いなナタリー。
そのナタリーが、ただ震えながら、泣き続けるなんて。
でも、無理もない。
ここまで走ってくる道で、多くの仲間たちが死んでいた。
血まみれで、死んでいた。
たくさんの悲鳴。
引き裂かれるような泣き声。
それを聞きながら、私たちは走ってきたのだ。
助かりたい、助かりたい、死にたくないと思いながら。
ふと、窓の方に視線を向けると、人影が見えた。
誰だろう・・・あんなに必死で走って・・・
男子生徒・・・だ・・・
2人いる・・・
全力疾走で、誰を探しているのだろう・・・
だめよ、
そっちは国境よ。
行ってはだめだわ。
危なすぎる・・・
「あ・・・」
あれは・・・
「アレン・・・」
ぼんやりした声で、ナタリーがつぶやいた。
私と同じコトに気づいたようだ。
そして、もう1人は・・・
「ロルフ、ロルフだわ・・・」