柔らかい栗毛。
水色の視線。
思い出すだけで、胸に痛みが走った。
馴れ合いで受け入れたはずの恋。
彼女に少しでも近づきたくて、妥協した恋。
心のどこかに罪悪感が刻まれるような悲しい恋。
それを・・・・・・俺は、踏みにじったのだ。
後悔して、何かが変わるわけじゃない。
過去は、決して形を変えない。
だけど・・・・・・俺は、間違っていた。
その事実だけが深く胸に刺さる。
叶わない想いに胸を焦がし。
愛する人のそばで微笑む友を憎み。
歪んだ感情を偽りの恋人に向け。
それでもそばにいてくれたのは、パトリシアだった。
なのに、俺は、それを踏みにじり、穢した。
懺悔は、ただ、彼女を傷つける悪意だった。
真実は、ただ、悲しみを深くする罪だった。
あぁ、もう本当に正しいものなんて、存在するのかすらわからない。
どこで道をたがえた?
どこで俺は間違った?
誰も答えてはくれない。
でも、過ちなら・・・正せはしないか?
繰り返すことなく、正すことは叶わないか?
もう、どうだっていい。
この本能のまま、俺は、脳裏に刻まれた笑顔をつかみたくて駆け出した。
私たちは、深い沈黙に包まれていた。
どういう言葉を発すればいいのか、私にもアレンにも分からなかったからだ。
「・・・寒いな」
「えぇ・・・」
「・・・屋根裏に行くか?」
アレンが私の傍らでそっとつぶやく。
「・・・うん」
屋根裏は、私たちの隠れ家だった。
付き合い始めた当初、人前でしゃべるのすら恥ずかしがった私のために、アレンが教えてくれた。
『テニス部の一番手にだけ引き継がれるんだ』
アレンはそう言った。
『じゃあ、ティムも知ってるの?』
『あいつはあいつでちゃんと持ってるさ』
アレンはいたずらっぽく笑った。
『昼休み、ロゼッティとティムの姿が見えないって、ヘレン先生が心配してるの知らないのか?』
「わ・・・久しぶりだね」
「そうだな・・・」
物陰の階段を上り、秘密の隠れ家に着いた。
最近は訪れることもなかったが、懐かしさに思わず頬が緩む。
まるで、戦争のことなど考えもしなかったあの頃のようだ。
「座れよ」