腕の中のぬくもりを抱きしめる。
ただただ、悲しかった。
ほの暗い光の中で、俺たちは、どこにもない誠実さを探すように抱き合った。
「ロルフ!」
廊下の向こうから歩いてくる恋人に声をかけた。
「アレンは大丈夫?」
「パトリ・・・シア・・・」
私を呼ぶ声に覇気がない。
目元が心なしか、朱に染まっている。
はしばみ色の瞳が、光なく私を見ている。
直感的に、違和を悟った。
「どうかしたの?」
「・・・すまない」
「え・・・?」
「俺は嘘をついてた・・・」
「・・・何の、こと?」
嘘?
嘘って・・・?
「俺は・・・」
だめ・・・だ。
聞きたくない。
怖い。
傷つきたくない。
だめ。
お願い。
言わないで。
「パトリシアを愛してなかった・・・」
「え・・・?」
夢よね・・・
えぇ、そう、夢よ、悪い夢・・・
「俺が愛していたのは・・・」
だめよ、ロルフ・・・
続きを言わないで・・・
だめ・・・
だめなの・・・
「ナタリーだ」
あぁ・・・どこかで気づいていた。
知っていた。
ちゃんと私は・・・分かっていたはずだ。
そうでしょう・・・?
なのに・・・
どうして・・・
こんなに胸が痛いんだろう・・・?
「すまない・・・パトリシア・・・」
ロルフが唇をかんでいる。
どうしてよ・・・
ひどいわ・・・
私にだって、あなたを罵る権利はあるはずよ・・・
私にだって、泣く権利はあるはずよ・・・
「許してくれ・・・」
聞きたいのはそんな言葉じゃないのに。