君の生きた証~love in war~

ついに・・・始まったんだ・・・



戦争が・・・





「パトリシア、逃げよう」



私は、必死でパトリシアの手を取る。

校門から、砲弾が撃ち込まれる。




怖い。
怖い。
死にたくない・・・



ただそれだけの思いで走った。
ひたすら走って、校舎の中に入ったときには、涙が止まらなかった。


怖くて怖くてたまらなかった。





「はぁ、はぁっ・・・」

「あ、アグネス・・・ノエラ・・・」

「ナ、タリー・・・ィ」



4人で、肩を抱き合って泣いた。

銃弾の隙を走ってきたせいで、顔がすすだらけだった。
寮から、わずか数百メートルほどの校舎までの道のり。

校門をくぐった生徒と、わずかに遅かった生徒とで、命が決まった。



強固な校門が閉鎖され、そこから校舎までの範囲は守られたようだが、その外の国境近くは火の海だ。

敵軍は、私たちの寮を乗っ取り、そこから籠城戦に持ち込むことにしたらしい。





校門に入っていたかどうかで、生死の境が決定した・・・。





その恐怖と安堵で、どうしていいか分からず、私たちは泣いていた。

戦争が・・・始まった・・・




止まらない涙に、足の震え。

ただそれだけが、戦いという悲惨な現実を物語っていた。
「あー、寒いなー」


もう一枚シャツを重ねればよかったと後悔する。

いつもより、気温が低い。



身体を温めようと、テニスラケットをひゅんと一振り。

いつも通りの手応えと重み。



低血圧の恋人は、ちゃんと起きられただろうか。



金色の髪に寝癖がつく様子を想像して、顔がにやけた。

かわいいだろうな、と思ってしまうのは、俺だけの秘密だ。

テニスコートでは、毎朝の光景だ。

テニス部のみんなが、練習に励んでいる。



ダブルスでペアを組んでいるティム・ヨハネスバーグが、ちょっと長すぎるあごをなでながら俺に近づいてきた。




「アレン、今朝、北の方で変な音がしなかったか?」

「北の方で?」

「あぁ、なんか・・・爆発みたいな」

「さぁ・・・」

「ま、国境には軍が常駐してるし、大丈夫か」



1人で納得して、ティムがうなずく。



爆発音・・・ね。
北の方・・・といえば、国境だ。

そして、寮がある。



国境地帯に軍が常駐するようになったのは、ここ数ヶ月でのことだ。

隣国から敵軍が攻めてこないように、と。



しかし、彼らの言う敵軍とは、俺たちの祖国の軍のことだ。



祖国の軍から身を守るために、異国の兵に防衛される皮肉には、思わず苦笑いしてしまう。

「おい、アレン、試合するぜ」


ティムに呼ばれて、おぅ、と応じる。



さぁ、調子を整えなきゃ。


俺のテニスが世界一好きだと微笑んでくれる恋人のためにも。

練習試合だろうが負けるわけにはいかない。




俺の専売特許である噛みつくようなボレー。

ティムが打つサーブが素晴らしく鋭いこと。


どちらとも、この地方では有名なプレーとなりつつある。




デイヴィッドや、ジェイソン、ロビンにドナルド・・・


数多いライバルを打ち負かしてつかんだ一番手の座は、何としても譲れない。




改めて、その思いを強くする。

そして、また、テニスラケットを一振り。







その瞬間・・・



ドカーー・・・ン・・・ッ!