君の生きた証~love in war~

まだ、だ。

まだ離れたくない。



まだ充分に愛し切れてない。
吐息をつく。



あぁ・・・どこかでかすった右手が痛い。
まだ愛し切れてない・・・まだ生き切れてない・・・


まだこれからだ・・・



俺たちは・・・まだ、生きなきゃならない・・・
ぼろぼろの身体にそう言い聞かせる。


まだ倒れるな。

まだ死ぬな。



せめて明日までは、彼女を守り切れ、と。








体力と精神力の限界を振り切った身体が、ふいにきしんだ気がした。
「アレンっ!」


ナタリーの悲鳴に、はっとして振り返ると、アレンがその場に倒れ込んでいた。



過労だろうか。

疲弊しきったその顔は、17才の少年のものとはとうてい思えなかった。
「おい、アレン、しっかりしろ」


ヘンリー先生も声をかけるが、目を開けない。


「疲れてたんだろうな」

「無理もないよ、昨日から働きづめだった」

「囮だって買って出て・・・」



周囲からも同情の声が上がった。

もう戦いの熱は冷め、静かな絶望だけがその場で共有する全てになっていた。




「上で休ませます」



ふいに、ロルフが言った。



「ここじゃ、ベッドも足りてないし、ケガしてるわけじゃないなら・・・」



冷静な判断だと思った。


「そうだな・・・静かなところで休ませてやれ」

「はい」


淡々とした表情で、ロルフがアレンの腕を抱える。

横には、半泣きのナタリーが付き添った。



「う・・・ぐ・・・ひぐ・・・っ」

「泣くなよ、ナタリー」

「ひぅ・・・っ、だって・・・っ」



いつも気丈なナタリーが泣きじゃくっているのに、いつもおちゃらけているロルフが、ただ静かな目をしていた。
その静けさで、ふいに胸が苦しくなる。


この人は行ってしまう。

明日になれば、もう離れなければならない。



それぞれ違う国を故郷と呼ぶのだから仕方がないと諦めきれる程度の想いではなかった。



自分の持つもの全てを捨ててでも、愛し抜きたい人だった。
ただ、その後ろ姿を目に焼き付けようと思った。


あの人が誰を想っていてもいいから、と。

今、生きていてさえくれればいいから、と。




儚い思いを刻みつけるように、私はロルフの背中を脳裏に写した。