敵軍にとらえられ、捕虜になる。
故郷へ帰される。
同胞に銃を向けた裏切り者として白い目で見られる。
それぐらい、覚悟していた。
覚悟していなければ、彼に銃など向けられなかった。
でも、愛する人と離れることになったら?
ただナタリーを守りたくて、故郷に背を向けた。
ただこの愛を貫きたくて、家族を振り切った。
全てを懸けたこの愛は、いったいどこへ行くのだろう?
もう二度と会えないかもしれない。
このまま戦争が続けば、この愛は叶わなくなるかもしれない。
それを覚悟できるほどには、俺は大人でも、強くもないのだ。
まだ、だ。
まだ離れたくない。
まだ充分に愛し切れてない。
吐息をつく。
あぁ・・・どこかでかすった右手が痛い。
まだ愛し切れてない・・・まだ生き切れてない・・・
まだこれからだ・・・
俺たちは・・・まだ、生きなきゃならない・・・
ぼろぼろの身体にそう言い聞かせる。
まだ倒れるな。
まだ死ぬな。
せめて明日までは、彼女を守り切れ、と。
体力と精神力の限界を振り切った身体が、ふいにきしんだ気がした。
「アレンっ!」
ナタリーの悲鳴に、はっとして振り返ると、アレンがその場に倒れ込んでいた。
過労だろうか。
疲弊しきったその顔は、17才の少年のものとはとうてい思えなかった。
「おい、アレン、しっかりしろ」
ヘンリー先生も声をかけるが、目を開けない。
「疲れてたんだろうな」
「無理もないよ、昨日から働きづめだった」
「囮だって買って出て・・・」
周囲からも同情の声が上がった。
もう戦いの熱は冷め、静かな絶望だけがその場で共有する全てになっていた。
「上で休ませます」
ふいに、ロルフが言った。
「ここじゃ、ベッドも足りてないし、ケガしてるわけじゃないなら・・・」