「ともかく・・・」
生徒たちと共に前線で戦って負傷したヘンリー先生がつぶやいた。
「援軍が来れば、それでお前らは助かるんだ・・・」
ヘンリー先生は、安堵したような嘆いているような複雑な表情を浮かべた。
「もう誰も死ななくていいなら・・・それが最善だ」
「生き残れよ、お前ら・・・」
ヘンリー先生が、アレンの頭をくしゃりとなでた。
「生き残ることが・・・逝ったヤツらへの祈りだ」
戦いが終わるなら・・・
各国間での戦争は続くとしても、私たちの戦いが過去のものとなるのなら・・・
もう戦わなくてすむのなら・・・
私たちは今度こそ揺るぎない幸福を手に入れられるだろうか?
私は、鉄のにおいが立ちこめる中で、自分の胸に問いかける。
私は・・・どう向き合えばいい?
祖国と、その敵国と、そして、自分の愛する人と・・・
答えの出ない問いが胸に渦を巻いていた。
敵軍にとらえられ、捕虜になる。
故郷へ帰される。
同胞に銃を向けた裏切り者として白い目で見られる。
それぐらい、覚悟していた。
覚悟していなければ、彼に銃など向けられなかった。
でも、愛する人と離れることになったら?
ただナタリーを守りたくて、故郷に背を向けた。
ただこの愛を貫きたくて、家族を振り切った。
全てを懸けたこの愛は、いったいどこへ行くのだろう?
もう二度と会えないかもしれない。
このまま戦争が続けば、この愛は叶わなくなるかもしれない。
それを覚悟できるほどには、俺は大人でも、強くもないのだ。
まだ、だ。
まだ離れたくない。
まだ充分に愛し切れてない。
吐息をつく。
あぁ・・・どこかでかすった右手が痛い。