まともな神経じゃやっていられない。
普通な精神状態じゃ生き残れない。
身体より先に心が崩壊する。
そうならないためには、まともな思考を頭から取っ払い、目の前の問題と向き合うしかない。
そのためには・・・
恐らく、言いたくて言えない不文律は忘れ去るべきなのだ。
戦いさえ終われば・・・とふと考える。
訊いてみてもいいだろうか?
訊けるだろうか?
そのときこそ、自分の疑念を解決し、アレンと真っ直ぐに向き合えるだろうか。
しかし、鉄に似た血のにおいで、その思惑はかき消される。
俺は、ただ瀕死の同胞を背負いながら、アレンの陰った表情を気に懸けるだけだった。
傷ついた仲間たちに食事を配る。
せめてもの温かいスープと、パンを持って歩いた。
みんな一様に疲れ切っており、体中に刻まれた傷が戦いのすさまじさを物語っていた。
体育館に、うめき声が響き渡る。
母を呼ぶ声、部活仲間を呼ぶ声、恋人を呼ぶ声・・・
生きたい、死にたくないと命にすがる声・・・
気が狂いそうな現実だった。
そして、その現実の中、少女が駆け抜けてきた。
「電報です!電報が軍から届きました!」
新聞部の1年生、アリサ・ホワイトだった。
「明日の夕方までに到着の予定だそうです!」
「何っ!?」
喜びより衝撃が勝った。
「助けが来るのか・・・?」
「軍が救いに来るのか?」
「終わるのか?」
「死ななくてすむのか?」
みんなそれぞれが疑問を吐く。
「俺たちは・・・どうなるんだ・・・?」
横でつぶやいたのは、ロルフだった。
アリサに歩み寄り、細い肩に手をかける。
「おい、お前・・・」
「は、はい・・・!」
のっぽな上級生に肩をつかまれ、アリサがすくむ。
「電報には、何て書いてある?俺たち・・・俺たち、留学生については何て?」