友人の倒れる姿を目の当たりにしたせいか、アレンは真っ青な顔で俺にすがってきた。
「ロル・・・フ・・・」
こんな気弱な表情のアレンを初めて見た。
入学以来、同じ部屋で過ごしてきた。
1年生の時は同じクラスでもあった。
同じ時間を共有し、同じ日々を送ってきた。
でも、あいつは、俺の悪い遊びには染まらなかった。
煙草も吸わない。
酒も飲まない。
女遊びもせず、ただ一途にナタリーを想っていた。
ただ真っ直ぐで、揺るぎなく、自分の正しいと思うものを信念として歩み続ける。
アレン・ヘンリー・ジョーンズは、そんな男だった。
真っ直ぐなものは、歪まない。
揺るぎないものは、強い。
だから、のんびりとした表情を作っていても、アレンは、芯の部分が強かった。
そのアレンが目の前で弱気になっている。
理由が少し分かるような気がしていた。
いや、確信していた。
アレンが隠していることに、俺は、気づいていた、
でも言えない。
言いたくて、言わなければいけなくて・・・それでも伝える勇気を出せない。
言ってはならないことだから。
世の中にはそういうことが存在するのだ。
誰もが同じだ。
言えないことを、きっと何か1つは心に秘めている。
アレンも同じだろう。
俺と同じ・・・ある種の呪いのように。
校舎にたどり着き、アレンのことは、一度、頭から追い払った。
自分のすべきことをすることが全てだった。
パトリシアに指示を出しながら、必死だった。
何かしていないと倒れそうだった。
何か考えていないと死にそうだった。
戦争とはそういうものだ。
まともな神経じゃやっていられない。
普通な精神状態じゃ生き残れない。
身体より先に心が崩壊する。
そうならないためには、まともな思考を頭から取っ払い、目の前の問題と向き合うしかない。