見ていて痛ましいほどだった。
どうしてこんなに心が痛むのか分からないけれど、ただ悲しかった。
アレンが泣いているような気がしたから。
「アレン・・・」
「お願いします」
「アレン・ヘンリー・ジョーンズ、顔を上げなさい」
ヘレン先生が静かに言った。
アレンは、素直に顔を上げる。
さらりとした茶色の髪が揺れた。
「はい・・・」
「分かりました。倉庫から銃を出しましょう」
「ヘレン!」
「分かっているわ、オーギュスト。でも・・・」
ヘレン先生は、オーギュスト先生を見た。
「この子たちの気持ちももっともです」
「大勢の教え子が死んで・・・それでもなお、あの国が憎くないかと問われれば・・・答えは否よ」
ヘレン先生が、ため息をついた。
「ただし、よくお聞きなさい、アレン」
「はい」
「敵軍からの攻撃があってからです」
「え・・・」
「あくまで銃は自己防衛のため。それを忘れないように」
「・・・分かりました」
アレンは、わずかに迷いを見せながらもうなずいた。
「おい、エミール、ロルフ、ダニエル、行こうぜ」
アレンが、こちらを見ないまま歩き出す。
いつもは、ナタリーがいれば、何だって一番の優先順位なのに。
「あ、アレン、何を・・・」
「バカ、戦いに備えるぞ」
いつものアレンらしくない声で、背中が遠ざかっていった。
「おい、アレン!」
思わず呼びかけた。
「・・・何だ?」
「お前本当に・・・いいのか?」
だって・・・お前は・・・
「お前が守るべきものは・・・」
いくら迷いなく歩いているように見せたって、本当は違うだろ?
「あのさ・・・ロルフ」
「何だ?」
「・・・黙っててくれるか?」
倉庫へと足早に向かうアレンが、静かに振り返った。
底知れぬ深い闇がアレンの瞳に浮かんでいる。
こんな目のアレンは初めてだった。
いや、もともとアレンは、厳しい顔つきをしている。
ナタリーには穏やかな眼差ししか向けないが、いつもはきつい目つきだ。
テニスの試合の時しかり。
勉強中しかり。
生真面目な性格を反映したような鋭い緑の目は、いつもぎらついている。
人を殺しそうな顔してる、と言ったのは、クラスメイトだったっけか。
とがり気味の顎や、きりりとした眉が、一層その印象をきつくしている。
ナタリーのクラスメイトであるチャールズは、「目が合っただけで殺されそうだ」とアレンのことを噂していた。
テニスの練習をさぼって、アレンに厳しく怒られた後輩は、いまだにアレンと口をきくのが苦手だという。
俺自身、ルームメイトになったときは、こんな怖い顔をしたヤツと一緒にやっていけるだろうかと本気で不安になった。
そう、根本的な部分で、アレンは殺気立った人間なのだ。
その視線を向けられて、鳥肌が立った。
言ってはならない。
触れてはならない。
そういう真実が、この世にはあるのだ。
忘れていた・・・