「おい・・・アレン、人が死にすぎて頭がおかしくなったのか?」
「何?」
「援軍が今来てるか?俺たちを助けてくれてるか?・・・壁の向こうでは、もう戦闘準備が始まってるってのに!」
「・・・!」
戦闘準備が・・・?
あいつらは・・・本気で、俺たちを皆殺しにするつもりなのか?
「壁の向こうじゃ、もう大砲が備えられつつある・・・本当に死ぬことになるぞ、俺たち」
エミールが吐き捨てる。
「それでも・・・」
エミールの気持ちが分かっていてなお、反論を重ねたくなるのは、・・・俺があの国の人間だからか?
「銃を向ければあいつらと同じだ」
「どんな大義名分があったって、人を殺すのは罪だ」
「はっ・・・」
エミールがあざけるように笑った。
「それが軍人の息子の言い分か?とんだ臆病者だな」
「エミール・・・」
「お前は友達が死ぬところを見てねえのか!?」
「エミール、落ち着け」
「ジェイソンが死んだ、パーシーが死んだ、それでもまだお前は、有名無実の正義を振りかざすのか!?」
エミールの拳が振り上げられ、反射的に歯を食いしばる。
左頬に激しい熱が響いて、背後の窓ガラスが割れる音がした。
・・・あぁ。
俺・・・何がしてぇのかもう分かんねぇや。
俺の守りたいものは、何だ?
俺が守ろうとしているものは何だ?
切れた唇をかみながら、自問する。
答えは出ず、ただ怒りに似た痛みが頬をすべるだけだった。
窓ガラスの割れる音で目が覚めた。
何が起こったのか、と思わず身を起こすと隣に寝ているはずのナタリーがいない。
もしかして、また襲撃が・・・?
そう思って身体をこわばらせていると、アグネスが駆け込んできた。
「パトリシア!」
「アグネス・・・、どうしたの?」
「アレンが喧嘩してる!」
「誰と?」
喧嘩という単語とアレンがうまく結びつかなかった。
アレンは、好き好んで人と喧嘩するようなタイプではない。
たぶん、これは誰に聞いても同じ意見だろう。
テニスに打ち込むときは、血気盛んで、とんでもなく激しいボレーを決めてくるという話だ。
でも、日常生活では、ごくおとなしい生徒。
先生たちの意見も、手のかからない生徒ということで一致しているだろう。
そのアレンが喧嘩をする相手・・・
「エミールとよ!エミール・アンダーソン!」
「エミールと!?」
エミールとアレンは、去年同じクラスだった。
部活動も、同じテニス部に所属している。
でも、たしかにそこまで親しいとは言えない。
もっというなら、エミールの恋人であるミラベルは、かつてアレンの交際相手だった。
2人の距離が縮まらないのは、そういう恋愛事情があるからかもしれない。
いろいろと思いを巡らせながら、階段を降りていくと、その現場に行き当たった。
荒い息を吐くエミール、それに、頭から血を流すアレン。
それだけ見れば、何があったかは明白だった。