「不器用だったからな、バーナードは」
「そう・・・ね」
「アレンがナタリーにベタ惚れなのも知ってたから、言い出せなかったんだよ」
それが・・・バーナードなりの想いだった。
受け入れることは出来ない。
私も同じだと言うことも出来ない。
でも・・・私を愛してくれる人がいた。
「ありがとう、ティム」
ありがとう、バーナード。
「混乱してて、墓場さえろくに準備できないだろ?だから、あいつを思い出せるもの、何かあったらいいなと思ったんだ」
「テニス部員だもの。ラケットなら、大喜びよ、きっと」
「そうだな・・・」
ティムは、そっとつぶやいて、バーナードのラケットをなでた。
悲劇は、いともたやすく日常を崩壊させる。
大人たちの身勝手な都合は、まだ大人になりきれない私たちを傷つけるのに充分だ。
もっと、バーナードと話したかった。
・・・もっと、もっと。
そのとき・・・
ガッシャー・・・ンッ!
何かの割れる音がした。
口の中に鉄の味を感じた。
手でぬぐってみると、唇を切っていた。
ついでに言うと、頭も痛い。
さっき割れたガラスで切ったかもしれない。
「お前がそんな臆病者だったなんてな、アレン!」
怒鳴られて、また頭が痛くなった。
「落ち着け、エミール」
「これが落ち着いてられるってのか!」
目の前で激昂しているのは、部活仲間のエミール・アンダーソンだ。
エミールは、俺より小柄で、格闘術の心得もない。
いたずらに拳を振り回してくるだけの攻撃を避けたら、エミールがケガをする危険もあった。
だから、とりあえず殴られてみた。
でも、こんなに憤りの声を上げられるくらいなら、避けて殴り返してもよかったかもしれない。
「俺は・・・援軍が来るまで攻撃はしない方がいいと言っただけだ」
「それが臆病って言うんだよ!」
もともとエミールとはそりが合わなかったが・・・
ときは、十数分前にさかのぼる。
「銃の使用許可をください」
エミールがヘンリー先生にそう申し出た。
「エミール・・・」
「それは・・・」
「・・・わけを聞かせろ、エミール」
先生は、あくまで冷静だった。