神様・・・
心の中で呼びかける。
音を立てて、何かが崩れていく。
『史上最年少の将軍。対外敵特別隊を新設』
写真付きのその記事は、今まで信じてきたもの全ての崩壊を意味していた。
あいつは・・・知っていたのだろうか。
知っていて、黙っていたのだろうか。
暗い瞳の友人の横顔が脳裏に浮かんだ。
時折見せる、暗い影の理由が分かった気がした。
穏やかな表情の下にある静かな殺気。
その理由。
俺は、ある恋敵の顔を思い浮かべながら、月明かりに照らされる新聞のしわを伸ばした。
鳥が鳴いている。
いつものベッドより硬い寝心地に違和感を覚えつつ、身体を起こす。
すぐそばに昏々と眠るパトリシアがいた。
周りには、大勢の女子生徒たち。
みんな、深く深く眠っている。
まるで、もう2度と目を覚ましたくないかのように。
現実を見たくないかのように。
こんな朝ですら、太陽は昇るのだ。
鳥は鳴くのだ。
前日に、誰が死のうと、誰が傷つこうと、次の日というものは平等に訪れる。
同じ階の2年生の教室に、体操着を取りに行った。
昨日は制服のまま眠ってしまったし、動きやすい服装の方が何かと便利だろう。
廊下を歩いていると、窓ガラスに自分が映っていた。
髪に癖がついている。
それに、昨日の戦闘で焦げたのか、焼け縮れた部分もあった。
『綺麗な髪ね』
『ほんと、うらやましいくらい素敵な巻き毛』
みんながそうほめてくれた髪。
器量よしじゃない私の、唯一の宝物。
それさえ、傷つけてしまう。
失わせてしまう。
戦いは、美しいものじゃない。
ただ、こうやって、何かを壊し、失わせる、凄絶なまでに汚いものだ。
教室へ行くと、先客がいた。
「あ・・・、ティム」
「ナタリーか・・・おはよう」
私たちの教室にいたのは、アレンとテニスでダブルスを組んでいるティムだった。
「何を・・・してるの?」
「あぁ・・・バーナードのテニスラケットをと思って」
「バーナード?バーナード・ウェールズ?」
バーナードは、冴えないテニス部員だ。
勉強もテニスも人並み以下にしか出来なくて・・・
同じクラスで、よく勉強を教えてやったが、いつも反抗的だったことしか印象にない。
『だから、ここの数式は昨日習った公式を使ってさぁー』
『うっるせぇなー』
『うるさいって何よぉ』
『そのまんまだよ、ナタリー・ジョーンズ!』
『ちょ、バカ!』
『顔なんか赤くするな、バーカ』
『あ、赤くなってないもん!』
『なってるね、真っ赤っかだ』
いつもいつも、からかってばかりで・・・
「バーナードがどうかしたの?」
「死んだんだ」