敵国の兵士だった。
こちらに攻撃をするうちに、流れ弾にでも当たったのか、血まみれで倒れていた。
俺たちより3、4才ほど年上に見える。
気の強そうな顔をしていた。
「う・・・」
兵士は、うめき声を上げた。
「・・・生きてる?」
腹部に弾を受け、瀕死のようだ。
味方に害があろうと、気にしないとは・・・
あらためて、敵軍の無情さを思った。
「・・・っ」
「どうした?何か言い残すか?」
何か言おうと口を開いた彼が、うっすらと目を開き、俺の背後を指さす。
「え・・・?」
振り返ると、薄暗い月明かりを背負い、立つ男がいた。
はっとして、身構える。
緊張で心臓の音が高くなる。
これで・・・終わりか?
俺は・・・殺されて・・・死ぬのか?
まだ、まだ・・・俺は・・・
敵軍の幹部だろうか。
この若い兵士を助けに来たのか。
それとも、俺と同じ死体回収の任に就いたのだろうか。
月明かりに、男の顔立ちがくっきりと映える。
茶色の短髪と口ひげに、鋭い緑色の眼光。
いかにも軍人らしい精悍な顔つきの男は、上等そうな軍服を身にまとっていた。
兵士は、彼を指さして、苦しげな息の下からささやいた。
「・・・ンズ司令・・・、万歳・・・」
俺は、耳を疑った。
「今・・・」
おそるおそる、兵士の口元に耳を近づける。
息も絶え絶えになりながら、兵士は、その男の名らしい言葉をつぶやいた。
今度は、はっきりとその名が聞き取れた。
俺は、信じがたい事実に困惑しながら、また後ろを振り返る。
しかし、さっきの男の姿はなかった・・・
アレンやロルフがひどくくたびれた様子で帰ってきたのは、真夜中過ぎだった。
学校の外では、何人もの生徒の遺体が回収されたらしい。
私たちも、校舎内で負傷者の看護に当たっていたが、助かった人は少なかった。
それはもう・・・気が狂いそうなほど。
日常はもう戻っては来ない。
ミルドレッドが新聞を掲示板に張り出す朝も。
ピーターが学生食堂で誰かのパンを取ろうとする昼休みも。
アンドリューが居眠りして先生に叱られる午後も。
ルドガーとキャサリンが照れくさそうに帰路をともにする夕暮れも。
もう何も帰っては来ない。
ただただ頭が重かった。
つらく、悲しく、切なかった。
もっと、生きていたかっただろうに。