しかし、その結果は美琴に眉をひそめさせた。

ジッパーがない。
ならば、どうやって仕込んだ?

『これ』は羊のヌイグルミのはず。どこかに仕掛けが施してあると踏んでいたのだが、どうにもそれは違ったようだ。

ならば時計か。


「時計自体がスピーカー?ったく、面倒臭いことしやがって…」

「ミコト、ミコト」

「はぁぁ…。世の中最低。もっとマシな人いろっつーの」


無理矢理にでも懐中時計をはがしてやろうと、美琴は羊の持つ時計に手を伸ばす。

そしてそのまま剥がしてしまおうと、時計を手にした刹那であった。



「ミコトの世界。望む世界。行こう、行こう。『マシな人のいる世界』へ」

「へ…?」



羊が震え、びかっと懐中時計が眩しい光を放つ。

あまりの眩しさに目を細めた美琴にもお構い無し、羊は時計を美琴の目の前に掲げた。


「行こう、ミコト」


ぽつり。

窓の割れた肌寒い部屋。
一人と一匹がその場から、いや、この世界から消えた。

きっと少女は今、望んだ世界にいることだろう。