目出し帽をつけていて、顔がわからない。見えるのは目のみ。声も多分、口が隠れているからいつもより低いと思う。年齢は、20代くらいかしら。若いのに、まだ未来があるのに、どうしてこんなことをしてるんだろう。
「おはよー」
「どう?気分は」
「一億あっちが払ってくれたら、ちゃんと返すから安心してねー」
……信じられないわ。そんな言葉。だって、拉致したのよ、私を。「信じて」ってほうが無理よ。
「ここはどこ…?」
普通に話したつもりが、声が震えていた。やっぱり怖いんだ。慣れっこない。
小さい頃、今みたいに拉致されたことが一度だけある。その時もこんなふうに、目出し帽をかぶった30代後半の5人組が私を眠らせて薄暗いどこかの学校の倉庫へと放り込んだ。
起きたら、倉庫の窓からピーポーピーポーというパトカーの音が聞こえて、ホッとした。
結局、私を拉致した犯人は、「ただの好奇心で」という動機で私を連れ去ったらしい。そんな気持ちで私は捕まったんだ、と思うとあきれて物も言えない。