あれから、私と江奈の立場は逆転したまま2週間が過ぎてしまった。


「美穂、大丈夫?」

そんなある日の練習後、心配した由佳が話しかけてくれた。

「江奈の方が上手だし、先生も気に入ってるみたいだし。いっそ江奈が伴奏者になれば良いんだよ。」

私がつい感情的になって本音を話したら、由佳の顔が険しくなっていった。

「は?そんなもんだったの?じゃあ降りたら?」

一気に捲し立てると、由佳はそのまま帰って行ってしまった。

こんなに由佳が感情的になって私を叱ったのは、これが初めてだ。

由佳がいなくなった教室で1人ぼんやりしていると、

「まだいたのか?」

と、少し訛り混じりの声がした。

「康太…。」

振り向くと、私の隣の席の康太がそこにいた。

「おう。お前、なにした?」
「うん、ちょっとね。」
「あいつは?由佳と帰んねぇのか?」
「喧嘩しちゃったんだよね…。」

康太は少し驚いたようだが、それから暫く私の話を聞いてくれた。

「まぁ、本気じゃねぇべ。気にすんな。」

康太の言葉はどこか力強く感じられた。

「ありがと。」
「おう。伴奏頑張れよ。」

康太が帰ったあと、私も早く練習したくなって家路を急いだ。