「由佳どうしよう!」

私が慌てて由佳に電話したのは、夜の9時近く。

ふなと遊んで、夕飯を食べて、お風呂に入って…。だらだら過ごしているうちに、明日早速合唱練習をする、という先生の言葉なんか忘れていた。

ピアノは最初の4小節分しか弾けないばかりか、まだ指使いも悪くてメロディーが全く繋がらない状態なのだ。

「美穂、大丈夫?今まで伴奏は1日もあれば粗方出来てたじゃん。」

電話越しの由佳の声もどことなく焦っていた。

「美穂、どうしたのよ?」
「実はね、今日家に猫が来たの。凄く可愛いんだよ!名前はふなって言ってね…」
「ちょっとまって美穂。そんなに早口で言われても分かんないよ。猫がどうしたの?」
「だからね、ママが猫を買ってきたの。凄く可愛くて、名前はふなに決めたんだ。」
「猫にふなって…!」

由佳は大爆笑していたが、冷静になって言った。

「魚だか猫だか分かんないけど、それが伴奏と関係あんの?」
「だって、可愛くてつい遊びすぎて、それで、練習なんて頭になくて…」

由佳の問いに思わず口ごもってしまう。そんな私に由佳はさらに、

「じゃあ今から練習しなさい!猫はいつでも遊べるけど、3送会は1回しかないんだよ!分かってるの、美穂。」

と少しおどけたような口調で続けた。