「私が、ね」
「うん」
「でも、そんなことしてくれるのかな?」
そんな彼カノっぽいこと…。
「言えばいいじゃん。それも“全て”に入るから」
「うん…そうだね。誘ってみる」
「よし、じゃあ幸運を祈ってるよ」
ピースサインを見せる遥に、心から感謝した。
放課後。
ドキドキして、気を失いそうっ。
だって、今…教室に二人っきりだから!
波岡くんとね。
「で、話したいってなに」
目の前にいるのは、無表情の彼。
他の女の子には、あんなに笑顔なのに…っ。
やっぱり、私が嫌いなの?
「あのね、言いたいことはたくさんあるんだ。でも、まとまりづらくて…。文章変になるかもしれないけど、私の想い、聞いて?」
「…」
その無言は、聞いてくれるってことでいいよね?
少し、深呼吸をして、ゆっくり話し出す。
「私ね、波岡くんと付き合えて…幸せな生活があると思ってた。確かに思ってた通り、幸せだった。……最初のうちは。ねぇ、私たち付き合ってるの?…話しかけたって無視。メールしたって返信ない。すれ違っても素通り。…そのわりには、他の子には私と全然違う態度で接しててさ」
「…」
「私のこと…もう嫌い?飽きた?…それとももともと、好きじゃない?波岡くんの気持ち、わかんない。わかんないよ…。だからさ、私のことフりたかったら、フって?」
「…」
「お願い……っ」
もういっそのことフってくれたら、この気持ち…少し楽になると思うから。
でも、それよりも……残酷な答えだった。
「話ってそれだけ?…俺、用事あるから」
「えっ、…」
波岡くんは、教室から出て行った。
なんで?
なんでよ……。
どうして?
私をフることよりも、用事のほうが大事なんだ。
せめて最後くらいは……私に優しく終わらせてくれてもいいのに。
私たちの距離……遠すぎる。
遠すぎるよっ。
「っ…ぅ……っく」
結局泣く私は……バカだね。
『あ、あのっ……好きです!わわ、私と付き合ってくださいっ!!』
『ははっ。……うん、よろしく』
あのときの爽やかな笑顔……嘘だったの?
あんなに嬉しかったのに。
あの『よろしく』は、こうなることが前提だったの?
お願い、教えて。
わかんないよ。
もう、君が……わかんない。
あれは、高校1年生。半年くらい前___。
暑苦しい毎日の中で、俺はひそかに片思いをしていたのを覚えている。
そんなとき、あの子に『放課後残ってほしい』と言われ、委員会のあと残ったんだ。
誰もいない図書室で、向かい合う二人。
俺は緊張をかくせない。
けど、それ以上に目の前の辻村は、緊張しているようだ。
緊張、ってかパニックになりつつあるかもしれないが。
かわいい。
一言でコイツを表すとすれば、この四文字が一番しっくりくるだろう。
なんせ、辻村の噂をする男友達は多い。
最初は興味なんてなかった。
けど、一目見たときから…その友達たちの心が分かる気がしだして。
委員会が一緒になって、やっと少しは近づけて。
それだけでも俺は嬉しいのに。
「あ、あのっ、…好きです!わわ、私と付き合ってください!!」
え…!?
これって……告白ってことでいいんだよな!?
辻村が…俺を!?
ま、マジで…っ?
「ははっ、……うん、よろしく」
緊張しまくる辻村が面白くて、つい笑ってしまった。
本当に、嬉しくてたまらない。
_____その日から、一緒に帰るようになった。
でも、俺と付き合っても、辻村の人気は落ちなくて。
って、別に辻村の不幸を願ってたわけじゃねぇよ。
男からの人気が、思ってたよりも減らなかったんだ。
なのに…。
辻村は、俺以外のヤツともあのかわいらしい笑顔で話す。
下心に気づけよ…って、何度も思った。
でもな、アイツは……そういうやつなんだ。
誰とでも笑顔で接して、心が広くて、みんなと仲が良くて。
優しくて、おおらかで。
だから、俺だって好きになったんだよな。
でも、やっぱり気にくわなかった。
俺ばっかり、こんなに心配して…不安になってんのが。
他の男たちと変わらない対応を、俺にもするのが。
あまりにも無自覚なのが。
俺ばっかり、好きなのが。
だからだよ。
無視したり、メールだって見るけど返さなかったり、冷たくしたり、だけど他の女には優しくしたりしたのは。
「私のこと…もう嫌い?飽きた?…それとももう好きじゃない?」
辻村…。
そんなわけねぇよ。
好きだよ。
「波岡くんの気持ち、わかんない。わかんないよ…。だからさ、私のことフリたかったら、フッて?」
フリたいわけねぇ。
フレるわけねぇ。
「お願い……っ」
そんな涙目で見るなよ。
悲しそうな顔すんなよ。
苦しそうな顔すんなよ。
なぁ…俺が、そうしてんの?
「話ってそれだけ?…俺、用事あるから」
ごめん、辻村…。
俺、逃げてるよな。
ごめん_____。
「おはよう!!」
「…おはよう」
「夢羽?…ど、どうした?家に迎えに行っても、先に行っててとか言うし」
元気のない私を見て、明らかに動揺している遥。
「あとで話すよ」
「…無理、しないでね?具合悪いとかあったら、すぐ言って?」
「うん。…大丈夫」
「そっか」とだけ言うと、遥は読みかけの本に視線を落とした。
昼休み。
私の中でいろんな気持ちがあふれてしまいそうで、勢いに任し昨日のことを遥に話した。
途中から、なんだか涙が出てきて…。
「ここじゃ目立つから、ね?」と遥に屋上へ連れてこられた。
屋上には、私たち以外、誰もいなかった。
「……そ、っかぁ。そうだったんだぁ」
「うん…」
緩やかな風が、私たちの髪をなびかせる。
「あのさ…夢羽。ひとつ、言いたいことがある」
「なぁに?」
「波岡くんと、別れたら?」