「先生、これなんかいいんじゃない?」

「そうだなぁ……。こっちの方が安いぞ。」

「もう、先生のケチ。」

「ばか。俺だって安月給なんだぞ。」


二人で見ているのは白熱電球のライトだ。

赤外線の飼育箱は高価だけれど、この時期なら白熱電球で十分代用できる。


「だって、ヒヨコが大きくなったら、このライトで私勉強できるじゃん。」

「確かにこっちの方が後々使えそうだけど……。しょうがない、こっちにするか。」


夏目は渋い顔で言う。


「やった!」


私は贈り物の電気スタンドを大事に抱えた。

好きな人から買ってもらうものにしては、少々実用的過ぎたけれど。

でも見るたび夏目のことを思い出すこの贈り物が、私はとっても気に入っていた。


「次はペットショップ行くぞ。」

「何買うの?」

「おが屑とヒヨコの餌。」

「ヒヨコの餌?」

「ああ。生後何日かによって与える量が変わるんだ。大丈夫か、お前。なんか心配だなぁ。」

「大丈夫。絶対大丈夫だよ。先生のヒヨコだもん。」


夏目は困ったように笑った。



その日、結局夕方までかかってヒヨコを飼う準備をし、家に帰った。

夏目とは、バスの中でお別れした。

私の家の方が手前にあるのだ。


「先生、ありがとう。」

「えっ?」


わざとらしく聞き返す夏目に、バスの乗客にも聞こえるような声で言った。


「ありがとっ!!」


バスの扉が閉まる。

窓越しに夏目と目が合った。

思い切り手を振ると、夏目はただ苦笑いしていた。

でも、ずっとずっと、見えなくなるまで目は合ったままだった。


このときの私たちは、一体どういう関係だったのかな。

夏目は私のことをどう思っていたのだろう。


少なくとも私の中では、夏目はもう取り返しがつかないほど大きな存在になっていたんだ―――