家に帰って、急いで自分の部屋に向かい、ヒヨコの入った箱を開いた。


「ピヨ。」


大丈夫、元気だ。

頼りなく羽を震わせるこの小さな命の温もりが、夏目との間の唯一のつながりに思えた。


「待ってて。」


私は再び箱を閉じると、制服を着替えて階段を駆け下りた。


「あら、お出かけ?」

「ええ。ちょっと友達の家に。」

「そう。」


玄関の扉を開けるとき、ちょっぴり開放的な気分になる。

私は走って、元来た道を引き返した。


学校の裏門には、私を待っている人がいる。

ヒヨコのおかげで、ちょっとだけ近づけたひと。

拒まれたって、もう私はあきらめない。


「せんせっ!」


手を振ると、夏目は小さな声でばか、と言って笑った。