あれから、一度だけ早瀬から連絡がきた。


「詩織ちゃん、悪いんだけどお父さん、外国に行かなきゃならなくなってね。
一緒に暮らせるのは当分先かもしれないけど、我慢してね。」


正直、早瀬と共に暮らす生活は、今以上に想像できない。

なにせ、家に男の人がいたことがないのだ。

それがいくら父親と言っても、よく知らない人と二人で暮らすことには、なんだか抵抗があった。


だから、ほっとしたのだ。


もっとも、叔母の家が居心地がいいというわけでは決してなかったけれど。


「今日は優香と出掛けるから。」

「はい。私は学校に行くので。」


もう慣れた。

寂しくなどないんだ、寂しくなど。


学校に行っても勉強以外することはない。

自習室でひたすら勉強するのみだ。

大学に行くつもりはないのに。


でも勉強以外することが浮かばないから、仕方がない。


何事もなく夏休みが過ぎ去ってくれることを、私は期待していた。