翌朝

「じゃ、いってきます。」

「我が使い魔、『暗黒の竜(ダークネスドラゴン)』の背中に乗って飛んで行けばすぐ着くものを…」

「はいはい、そういうのいいから。」

まったくこの父親は…

生きてて恥ずかしくないのかな

「息子よ…

わたしの魔法『異界への扉(テレポート)』を使って、魔界学校に『座標移動(ワープ)』させてあげましょうか…」

「はいはい、そういうのいいから。」

まったくこの母親は…

生きてて恥ずかしくないのかな。

魔界学校ってなんだよ。

そのまま無言で歩き出す。

僕は毎日バスで学校に通っている。

家からバス停まではすぐだ。

そして学校近くのコンビニで降り、朝飯を買って学校にいくというのが日常である。

今日は偶然にもそのコンビニである女の子と出会った。

最も、こいつも女として見てはいない。

「あ!剣!おっはー!」

「うるさい。」

「つめたっ!」

こいつは苦手だ。

うるさいし、テンション上がるとすぐに殴ってくる。

「おはよう、はっち。」

「おおう!おはよう!」

本名は発地火鈴(ほっちかりん)。

みんな名字の発地からはっちと呼んでいる。

由来は誰かが間違えてずっとそう呼んでいたからだそうだ。

「じゃ。」

「おいおいおい!

ちょっと待ちなよ、ユー!

一緒に学校いこうぜよ!」

「いやだ。」

こうなると思った。

こいつと関わるとろくなことがない。

完全に遅刻フラグだ。

「そんなこといわずにさぁー。

一緒にいこうよー。」

「……」

無言で歩き続ける。

「ねぇー、ねぇってばー。」

「結局着いて来てんだからいいだろ!」

最初に言っておこう。

こいつは女友達では断じてない。

遅刻しないようにさっさと着いてしまおう。

今の季節は冬。

寒い朝で凍りついた道路とはっちが、僕をいつも通り学校に着かせるはずもなく

「ひゃあ!」

滑ってはっちが転んだ。

それを助けるために遅刻をするならまだよかったさ。

でも、実際はそうじゃなかったのだ。

滑ってはっちが飛んだ。

もちろん、僕のほうへ。

どすん。

二人で転んでいる様はさも滑稽だっただろう。

一瞬視界がぼやけ、正常な視界に戻ったとき、僕は男としては嬉しいものを目撃する。

胸だね。

前屈みになって転んでいるはっちの胸が若干見えた。

いやー、葉好木と違って大きいんだなー。

「ごめんー!」

「……大丈夫だから退いて」

そして、自分が今どんな体制なのか気づく。

「っっっ!!

…見た?」

「少し。」

「うわぁああああ!!!」

「見てもなんも嬉しくねえよ。」

「そっか☆」

「立ち直りはやっ!」

こうして遅刻した。



「今日、遅かったね。」

休み時間、葉好木が声をかけてくる。

「あぁ、はっちに出会っちまった。」

「それはご愁傷様。」

実ははっちと葉好木は仲がいい。

小柄な葉好木がはっちに愛でられてるだけなんだが。

はっちと知り合ったのも葉好木経由だ。

「なんで、あいつはあんなに声がでかいんだ。」

「きっと、喉が人より広いんだよ。」

「そういうことにしておこう。」

周りの人には僕と葉好木、はっちの3人が仲良しだと思われてる。

だから、周りの人から見たら両手に花だ。

でも、そんなことはないことを一部の人は知っている。

いわば、「両手にダンベル」

女とは言えども男に近いからな、2人とも。

僕も男友達は普通にいるほうだし、葉好木も友達は普通にいる。

だが、はっちは比べものにならない。

はっちの友達の数は尋常じゃない。

本人いわく話した人はみんな友達だそうだ。

こんなすごい特徴を持っている。

特徴と言えば葉好木だが、あいつはああ見えて頭がすごくいい。

成績は常にトップ5にはいる。

勉強は大してしていないみたいだが。

「葉好木。」

「なに?」

「おまえ、自分が何しにきたか忘れただろ。」

わざわざ僕のいるクラスまで来るには理由があるはずだ。

僕の遅刻の理由なんか聞きにきたわけじゃない。

僕は何だか分かっているのだが。

「うーん、

ほんとにわすれちった。」

「マンガだろ。

少女マンガ。」

「あ!そうだそれそれ。」

そして、マンガを手渡す。

「今日はどうする?」

まあ、どうせ散歩だろうな。

「今日は帰る。

4時ね。」

「おう、わかった。」

僕も今日はおとなしく帰るか。