今日は月夜の家に行く日なんだが

迷った。

ここはどこだ?

バスできた。

月夜に言われたバス停で降りた。

で、ここはどこだ?

待ち合わせ場所が見つからない。

『月夜助けてくれ』

ヘルプline送信。



……

………

こない、返信が。

「剣~!」

「月夜っ!」

「どこまで来てんの!?

全然待ち合わせ場所と違うじゃん!」

「いやー、迷ったんだ。」

「迷ってもこんなとこまでくるほうがおかしいよ!」

「すまんすまん。

ところでlineしたのに返信なかったんだけど。」

「あー、携帯家に置いてきたから。

そんなことより、ほらっ、いくよ。」

「おう。」

歩き出すと手をつないできた。

手繋いだの初めてだな。

全国の、女の子と手を繋いだことのある男はわかると思うが女の子の手って細くて、小さくて、柔らかくて、

簡単に潰れちゃいそうなんだよ。

だから、優しく守ってあげたくなる。

それが男の思ってることだと思うぜ。

月夜の家に着くと月夜のお母さんが出迎えてくれた。

小さいころ一緒に剣道に通っていたから、お互いに顔は知っていた。

「剣くん、大きくなったねぇ。」

「はい。」

小学校以来なのでしばらく顔も合わせてない。

「ゆっくりしていってね。」

「はい、ありがとうございます。」

「じゃ、部屋行こっか。」

「お、おう!」

なんか緊張するなぁ。

階段を上ろうとふと上を見上げると、なにか陰が動いた気がした。

「そういえば月夜、妹いたっけ?」

「うん、剣道やってたよ。」

「そういえば一時期いた気がする。」

そんな家族構成だ。

父母妹と生活しているらしい。

さきほど登場した母妹だが、なにもフラグは立っていないので気にしない方がいいぞ。

って、誰に語りかけてるのやら。

「ここがわたしの部屋。」

中に入ると全体的に白っぽく、ピンクの小物が多い。

そして、いい匂い。

「待っててね、お菓子持ってくるから。」

「お構いなく。」

部屋を出ていく月夜。

その間に部屋をジロジロ見渡してみる。

テーブルと机、ベッドで部屋の大半のスペースをとっていて、全然ちらかっていなく、きれいだった。

部屋をうろついてみると机の上にある写真を見つける。

小学生のころ、僕と月夜が一緒に剣道をしてたころに撮った写真だ。

僕も同じ写真を持っているが僕が持っている写真とは少し違った。

その写真には僕と月夜しか写っていない。

僕が持っている写真のほうは大会に出場したときに記念に団体戦のメンバーで撮った集合写真だ。

だから、他のメンバーも写っている。

でも、月夜の写真はそれが切り取られていた。

どうしてだ?

月夜が戻ってくる。

「その写真ね、実はわたし小学校のときから剣が好きだったの。

それでその時に切り取って今もずっと飾ってある。」

「そうだったのか。」

知らなかった。

むしろ大して仲良くなかった気がするんだけどな。

「そういえば小学校のとき、おまえ眼鏡だったな。」

「そうだよ~。

あの時のわたしは思い出したくない…。」

「え、僕、眼鏡のほうが好きだけど。」

一瞬月夜の顔が歪み、すごい早さで机を開け、眼鏡を取り出しかけた。

「これでいい?」

いいとかそういう問題じゃないんだが。

「かわいい。」

ぽっと赤くなる月夜。

僕も小学校のときは月夜をかわいいと思ってたんだ。

好きとかそういうのではないけどな。

でも、徐々にギャル化していく月夜は昔の純粋な眼鏡の女の子を失っていった。

「これから、眼鏡にしようか?」

「いやいや、月夜がコンタクトのほうがいいからそうしたんだろ?」

「うん、まあね。

でも、剣がそっちがいいなら…」

そっちがいいけども。

「僕の好みに合わせて変えることないさ。」

「う、うん…」

この時まだ僕は分からなかったんだ。

女の子って好きな相手の好みに合わせて生きてるということが。

「さて、なにしようか。」

「……。」

にこにこしながらこちらを見ている。

これが上北だったら即死だろうな。

「もしかして月夜さん…」

「はい?」

「プランなしっすか?」

「はい!」

「そうっすか…。」

まあ、僕も考えてなかったけどさ。

「しかも…こういうときは…

男の子はムラムラするんじゃないの…?」

なに言ってんだこいつ。

「ほら…襲いたくなるんじゃないの?」

「はぁ!?」

なに言ってんだこいつ!?

「いやいやいやいや、おまえはなにを言ってるのかね!」

ちょっと口調おかしくなったわ!

「しかも、ほら、そんな、ねえ?

僕ですからね!そう僕!」

なに言ってんだ僕は!?

自分で言っててわけわからんわ!

「わたし、剣ならいいよ?」

「いやいや、よくないよくない。

しかも、さっき、て、手繋いだばっかだぞ!?」

「じゃあ、それより、先、する?」

這い寄ってくる月夜。

「へ!?え!?」

どんどん近づいてくる月夜。

こいつ酔ってんのか!?

僕が襲われてるやないかい!

「ふふっ。

うっそー。」

こいつ…。

「結構焦っただろうが!」

「剣も男の子だねぇ。」

くそっ!

「お話でもしてよっか。」

月夜の学校の友達のこと、月夜の学校の剣道部のこと、葉好木のこと、いろんな話をして過ごした。

もちろん、リア充的な展開は一切なく、午後6時を回った。

「そろそろ帰るかな。」

「うん、バス停まで送る。

また迷子になったら困るし。」

「さすがにもうならねえよ!」

一緒に歩いてバス停に向かう。

僕はこれから月夜に大切な話をしなければいけない。

きっとひどく悲しませることになるかもしれない。

月夜がきゅっと手を握ってくる。

「なあ、月夜。」

「ん~?」

「大事なこと言うからちゃんと聞いとけよ?」

「うん?」

「別れよう、月夜。」

月夜の細くて小さくて柔らかい手が潰れてしまった気がした。