──────次の日の、午後10時。

俺は楓の家のチャイムを鳴らした。


ガチャッ

楓?「……上がって。」

ドアを開けたのは、明らかに楓ではなかった。


介「楓…チャン?」

カズサ「あたしはカズサ。

楓の中の、もう1人よ。
気付いているんでしょう?」

「…カズ、サ。」

誠「…変な感じ。筏井さんが、こんなに上品なオーラまとってると…」

カズサ「普段は下品?」

誠「いや、天然って言うか…ドジっていうか…」

はは、確かにドジだ。



カズサ「介君…だっかしら?

ちょっと立って。」

介「え、オレ?」

介が立つと、カズサは有り得ないスピードで拳を繰り出した。

そして、介の目の前で止まる。


介「………ッ」

介は動くことなく、ただ驚いた表情だった。


介「え…」

カズサ「分かった?
香戦を潰したのは私。

族潰しが私の趣味なの。」

誠「それって…俺たちもって事?」

カズサ「そういう事。

さすが、誠君は話が早いわね。」

「じゃあ、そばに近寄るなっていいたいのか?

楓はどうなんだ。

そんな風には見えなかったぞ。」

俺たちと、一緒にいたがってた。

それなのに、自分たちが潰される恐怖でどうして離れなきゃいけないんだ。



カズサ「時雨君、貴方楓が好きなんでしょう?」

「なっ…!」

なにを、突然…っ!!

カズサ「だったら近付かない事ね。

楓は貴方が好き。
このまま二人が一緒にいれば、お互いに思い合うのは目に見えている。」

介「それのどこがいけないっつーんだよ?」

カズサ「介君、貴方意外とバカなのね。

2人が一緒にいたら、2人とも傷つくことになる。」

陸「それは…時雨の両親のことと関係があるのか?」

カズサ「…なんのこと?」

陸「ふざけんな!
すべてを話すんじゃねぇのかよ!」

カズサ「これがすべてよ。
大体、貴方達にすべて話すなんて言ってないし書いてもいないけどね。」

陸「…っ、」

「楓じゃない!
楓は…関係ない。」

カズサ「…誰も知らなければ、皆幸せになれるのかしら。」



それは…どういう意味だ?

楓じゃない、楓な訳ない!

アイツじゃない…!


誠「…そもそも、どうしてカズサさんは生まれたの?」

陸「精神的な何かがあったんだろ?」

誠「バカだなあ陸。
そのなにかを聞いてるの。」

陸「誠、この俺をバカ呼ばわりだと…?
許さん。」

また始まった…。

カズサ「喧嘩はよそでやってくれる?」

誠「…スミマセン。」

と思ったらすぐに終わった。


カズサ「私の場合は、普通の多重人格じゃないの。

これは───…最初は、人工的な多重人格なのよ。」

人工…?

人がわざと人を多重人格にしたってことか?

なんのために?


あああああ、こんがらがってきた…。



カズサ「これ以上言うことはない。

ただ、今の筏井楓を守りたいなら、貴方達にできることはなにもないわ。

しいていうなら、彼女への気持ちを断ち切り、友達として接しなさい。

それができないなら、筏井楓に近寄らないで。」

「…カズサはどうしてそこまで楓を守りたいんだ?」

カズサ「それは……、

『筏井楓』という人格が消えてしまったら、ストッパーが外れてしまうから。」

ストッパー?

なんだそれ。

カズサ「そうなってしまったら、この身体はもはや人ではない。

愛に飢えた、ただのカイブツよ。」

カイブツ?

どうして?


楓は、俺が思っていた以上に重要な人物なのか?