後ろから少年の一言が聞こえたが、雪美は振り返ることはなかった。

「ただいま・・・」
あの祠から自宅まで、思った以上に近く、気持ちの切り替えが出来ないまま家に着いてしまった。
「おそいよ!」
この村に幼稚園に行く習慣はなく、小学校へ入るまで自宅学習が当たり前なので、小さい晴美はいつも家にいて、覚えたてのおぼつかないナマイキ言葉を言い出していた。
「おなかすいたぁ、おなかすいたぁ!」
晴美は直ぐに雪美の裾を引っ張り、騒ぎ出した。
「うるさいな、今用意するからあっち行っててよ」
ウンザリしながら、雪美は晴美を台所から追い出すが、晴美も負けずに食い下がる。
「ねぇ、ねぇきょうのごはんはなぁに?」
「今日は、カレーだよ」
「えぇ〜、またカレー?このまえもじゃん!ハンバーグたべたい!ハンバーグ!」
嫌だと、一層騒ぎ出した晴美に雪美の我慢がピークに達した。
「もう!!そんなに文句があんなら自分で作んなさいよ!」
雪美は力の制限が出来ず、晴美を思いっきり突き飛ばしてしまい、晴美はそのまま床に尻餅を着いた。
「うぅ、うあぁぁぁぁぁ!」
痛みより、突き飛ばされた事にショックを受けた晴美は大声で泣き出してしまった。