母親は、少年に麦茶を注ぎながら遠慮がちに話した。
「別に、今までだって留守ばっかりだったじゃん、何を今更」
少年はご飯に目線を合わせたまま、厭味っぽく言った。
少年の家は、母子家庭で、父親とは五歳から一度も会っていなかった。女手一つで今まで育てられた事は理解しているが、仕事ばかりで相手をされてないのも事実だった。
「悪いなとは思ってるわ、だからってのも変な話だけど、実家ならほらおばあちゃんいるし、久しぶりでしょ!おばあちゃんに会うの」
「記憶に無いから、久しぶりの話じゃないよ」
少年は、母親に視線を向けた。
「・・・そうね、最後に行ったのは四歳になった頃だったね」
母親はため息を付いて、目線を外した。
「・・・」
そして、二人の間にいつもの沈黙が拡がった。
「・・・まっ、考えてみて」
そう言うと、母親は席を立ちキッチンに入っていった。
いつからこんな風になったのだろうか、少年はふっとそう思いながらも、この沈黙に慣れてしまった事にも気が付いた。