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それからしばらく時間が経って、小松の歓迎会をやることとなった。


だがそれは、歓迎会という名の、小松の本心を見分けるもの。


副長たちは、もしも酒を飲んで酔えば、本心が見えてくるとでも思ったのであろう。


だが、思いがけない事実が発覚した。


それは、未来には、二十歳にならないと酒を飲めないということ。


小松はまだ十七だということ。


だから小松は、頑なに酒を拒んだ。


だが、藤堂さんが無理やり酒を飲ませ……小松は、少し酔ったのか部屋から出てしまった。





「これじゃあ分かんねぇよ……」





その途端、長くため息を吐く副長。


ため息をつきたくなるのも当然だろう、これで小松の本性が出ると思っていたのだから。





「……山崎」


「はい」


「小松の様子見てこい」


「分かりました」





副長に言われ、俺はそっと小松の後を追った。






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庭に出ると、小松の姿があった。


小松は……酔ったのか、桜の木に身を委ねて眠っていた。


俺は小松に近付いていった。





「……」





しゃがみ込み、小松の髪を梳く。





「大丈夫だ……俺は信じてるから」





……局長や副長が、信じようが信じまいが。


俺は、信じる。


だが直接は言えない。


それでもせめて……今は、慰めてやりたい。


昔のように頭を優しく撫でると、 小松の頬を、一粒の涙が伝った。





「お母さん……お父…さん……」


「……っ!」





ドクンと、心臓が跳ね上がる。


同時に止まる俺の手。








寝ている小松の目から、とめどなく溢れる雫。





「……すまない」





俺には、そんなことをする権利などないのに。


まだ小松の頭に乗っていた手を引っ込め、そっと側を離れようとする。


が、立ち上がる寸前、小松は俺の腕を緩く掴んだ。





「も……行かないで…」





そして、またポロポロと芳乃から溢れる涙。


俺の腕を、小松は離そうとしなかった。


だが確実に、この時俺を罪悪感が襲ったんだ。


やはり、小松は自分の両親が殺されたことは分かっている。


……それでも、揺らいでしまう。


俺の決心が。


また、お前を好きになってしまう──。





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それから数日後。


京を監視していると、あることに気付いた。


それは、長州の者が京を出入りしているのでは、ということ。


昨年、“八月十八日の政変”と後に呼ばれる、長州の者を京から追い出す事件が起こった。


それなのに、出入りするとは如何なものか。


俺は小松と一緒に、その事件について調べていった。


調べにより分かったことは、やはり、長州を始めとする倒幕派が何かを企んでいるということ。


その“何か”は、副長の拷問によって吐かれるだろう。


……と、思っていたが、拷問はなんと小松がやることになったらしい。


副長によると、小松は自ら拷問をしたいと言ったという。


だが、何故?


しかし、本人はもしかしたら気付いていなかったかもしれないが……拷問の際、小松の手は震えていた。


まさか無理をしてやっている?


それとも、俺らの味方だと証明するため、か。


もしもそうであれば、小松は、俺達が信じていないという本心をもう分かってるということだ。






──頼ってほしい、と。


俺が、俺自身の手で小松を守りたいと……思った。





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風が強い日を狙って御所に火を放ち、その混乱に乗じて、暗殺などの計画を実行。


そして現在、長州を始めとした浪士たちは会合を行っている。


その場所は、普段よく使用している池田屋だろうとのこと。


ただし、新撰組が御用改めに来るのを恐れ……場所を変えて、四国屋の可能性もある。


それが、小松の拷問により明確となった事実であった。


それでも副長は、どちらの可能性も半々だと言った。


俺もそうだと思った。


だから、





池田屋……局長率いる十名と小松。


四国屋……副長率いる二十四名と俺。





このような人数編成を組んで、出動することとなった。


しかし、人数が足りないため会津にも加勢を要請。


新選組と会津は、祇園会所に集合することとなった。





「いいか、小松。もしもの場合はすぐに離脱しろ」


「え?大丈夫だよー」





……無理をしているのではないか。


いや、小松はそのこと自体に気付いていないかもしれない。






拷問のとき、小松の手は震えていたから、その時から心配だった。


本当なら行かせたくなんかない。


だが、人数が少ないことや、もしものときの連絡係として俺らも行かなければならない。


もちろん……小松も。


しかも、池田屋が本命であれば、局長の方は十人しかいないから、もしも会津の加勢が遅れた場合は小松も参加しなければならないのだ。





「お前……どっちが本命なのか、分かってるんだろ?」


「……うん」


「だけど、教えたら駄目だと思う。さっきも言ったけど、歴史が変わるかもしれないから……」


「……そうか」





確かに、小松がこれから起こること全てを打ち明けてしまえば、歴史は変わるだろう。


誰も、悪いことに進みたいなどと考えている者はいない、というのは当然であるから。


準備が整うと、だんだんに緊張してくる。


俺はいつも監視ばかりだから、このように新選組の隊員と一緒に出動するのは初めてだった。


しかし、刻一刻と迫る時間を止めることなどできない。





「よし……っ。じゃあ、行こう」





俺達は、祇園会所に向かった──。









……しかし、とんでもない事態が発生した。


加勢を許したはずの会津が、約束した時刻になっても姿を現さなかったのだ。





「近藤さん、もう行ってもいいんじゃねえか」





副長は眉間にしわを寄せ、静かに怒りの声を上げる。


その言葉に、局長もしっかりと頷いた。





「……そうだな。それでは、行くぞ!」





はいっ、と返事をそろえ、俺は副長に続いていく。


ふと振り返ると、ささっと闇に紛れていく小松の後ろ姿が見えた。


……どうか。


どうか、池田屋が本命ではありませんように。


小松に無理はさせたくない。


四国屋に、敵がいますように。


誰かのためにこんなに願ったことなど、今までにあっただろうか──。







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そして、俺達は市中を駆け抜け、ついに到着した。


“四国屋”と書かれた提灯が、何故か不気味に見えてしまう。


暖簾をくぐった副長は、声を張り上げた。





「御用改めである!主はすぐに出てこい!」





……だが、その店に感じられる雰囲気は、少しも張り詰めていなかった。


案の定、奥から出てきた主は、不思議そうな顔をしている。





「あ、あの……うち、何かしました?」





きょとんとした表情でそう言われれば、ここが本命ではないことなど、容易に理解できた。


ぐ、と手に力が入る。





「くそ……っ」





気付けば地面を蹴っていた。


──本命は、池田屋。





「おいっ、山崎!」





副長たちの声が、どんどん遠くなっていくと同時に、俺の足は確実に池田屋へと向かっていた。





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池田屋に近付くにつれ、だんだん人が混雑していく。


今日は祇園祭があるからだろうか……いや、そうではない。


やはり、人々は気になってしまうようだった。


何故、新撰組が池田屋に御用改めをしたのかを。


確かに今、京は祇園祭で賑わっている。


しかし、池田屋の前は傍観者で溢れていた。


悲鳴を上げている女性、池田屋から聞こえてくる肉を引き裂く音に怯える子供。


そんな人達を掻き分け、俺は池田屋の中に足を踏み入れる。


同時に、ぬるっとした赤い液体で、足がもつれた。


……どこかに小松がいる。


早く探さないと──。





「山崎さん!?土方さんたちは!?」




この激闘の中、永倉さんが刀を敵に突き刺しながら俺に話しかけてきた。