お母さんは救急箱から消毒液を取り出すと、脱脂綿に含ませ私に手渡してくれた。
水道水で十分に血を流した姉に、あたしは何度も謝る。
「お姉ちゃん、ごめん! 本当にごめんね。綺麗な肌に傷をつけちゃって」
姉はモデルだから、肌だって大切なのに。あたしが連れてきた猫で傷を負ったら、せっかく貰った仕事をふいにしてしまわないか。そんな懸念があった。
(代わりにあたしが傷つけばよかったのに。あたしの肌なんて誰も気にしないんだから)
――あの時みたいに。
あたしがポロリと涙をこぼすと、そっとタオルが頭に被せられ、ポンポンと軽く頭を叩かれた。それは優しくて、こちらを責めたりする感じはなかった。
「気にしない。これは単にあたしの不注意。あたしはむしろあんたがケガしなくてよかったって思うさ。だから、自分のせいとかグジグジ悩むんじゃないよ」
それに、とお姉ちゃんは付け足す。
「手の傷を隠す手段ならいくらでもあるから、心配しなさんな。仕事に関してもノープロブレムだしさ。だから、あんたが気に病む必要なし」