「ゆり、ゆず。私はあなたたちどっちも傷ついて欲しくないわ」
姉の治療が終わった途端、母が唐突に言い出した。腕を差し出し、あたしと姉とを軽く抱き寄せる。
「だけど……悩んだり苦しんだりする方が、母親としては辛いのよ。軽い身体の傷は治るけど、傷ついた心は癒すのは難しいから」
だから、と母は言葉を重ねた。
「泣きたい時は泣きなさい。苦しい時は、誰かに頼りなさい。それが私でなくても……差し伸べた手を取ってくれる人はいるはずよ。あんまり自分だけで悩んだりしないで」
もちろん、私はいつでもあなた達の話を聞くわ。そう付け加えた母は、背筋を正して最後にこう呟いた。
「忘れないで。あなたたちはいつまでも私の子どもなんだって。私はいつでもあなた達を想っていることを」
母はあたしの頭を撫でた後に、すっかり戦闘(仕事)モードに早変わりした。
「2人とも遅刻しないようにね!」
そう言い残し、お母さんを狙う独身男たちの群れの中に突撃していった。
「ゆいさん! 今度食事に……ぐべ」
派手なパンチをかます音が聞こえた。