玄関を出ると熱風が私たちを包む。
夏特有の嫌な感覚に顔をしかめた。
グラウンドでは熱心に部活に励む声が、校舎からは合唱部のハーモニーがそれぞれ響く。
「あ、この歌好き。」
彼女は立ち止まって校舎を振り返ると、そう言った。
「……何の歌?」
耳をすませても思い当たる節のない私は、隣で口ずさんでいる彼女に聞いた。
「ほらあれだよ。昔さ、小学生の頃かな。合唱コンクールで歌った曲。覚えてない?"大空"って歌。」
私はその曲名になんとなく思い当たる所があるような気がしたけれども、あまりよく思い出せなかった。
「なんか聞いたことあるような気もするんだけど…でもたしかに良い歌だね。」
自然と耳に馴染むメロディーだと思った。
「これ好きだったからよく覚えてるんだ。でも、高校生が歌うとこんなに違うんだね。なんていうか、躍動感っていうの、力強い感じがする。」
「おっさすが元合唱部。目の付け所が違うね。」
沙姫は私を見て笑うと、校舎に背を向けて歩きだした。
私もそれにならう。
「っていってもすぐ辞めちゃったけどね−懐かしいなぁ。」
入部してわずか3ヶ月で沙姫は合唱部を辞めた。
人間関係の問題で悩んだ末の結論であった。
私は本当は彼女が辞めたくなかったのを知っている。
彼女に相談された時、痛い程にそれがわかった。
「時間が経つのって早いよね。」
「本当に。」
時間はあっという間に私たちを大人へと追い立てる。
人間関係で悩んだり、くだらないことで涙が出る程笑ったことも、全てみんな過去として過ぎ去っていく。
忘れたくない痛みも喜びも、まるで泡のようにゆっくりと色褪せて、思い出す度に、作り替えられてしまうのだ。
「もう受験生かぁ。憂鬱。」
いつのまにか私たちは、高校最後の夏を迎えていた。
「勉強しなきゃね。」
「浪人は避けたいもんね。」
「夏休みは勉強詰めか−」
夏特有の嫌な感覚に顔をしかめた。
グラウンドでは熱心に部活に励む声が、校舎からは合唱部のハーモニーがそれぞれ響く。
「あ、この歌好き。」
彼女は立ち止まって校舎を振り返ると、そう言った。
「……何の歌?」
耳をすませても思い当たる節のない私は、隣で口ずさんでいる彼女に聞いた。
「ほらあれだよ。昔さ、小学生の頃かな。合唱コンクールで歌った曲。覚えてない?"大空"って歌。」
私はその曲名になんとなく思い当たる所があるような気がしたけれども、あまりよく思い出せなかった。
「なんか聞いたことあるような気もするんだけど…でもたしかに良い歌だね。」
自然と耳に馴染むメロディーだと思った。
「これ好きだったからよく覚えてるんだ。でも、高校生が歌うとこんなに違うんだね。なんていうか、躍動感っていうの、力強い感じがする。」
「おっさすが元合唱部。目の付け所が違うね。」
沙姫は私を見て笑うと、校舎に背を向けて歩きだした。
私もそれにならう。
「っていってもすぐ辞めちゃったけどね−懐かしいなぁ。」
入部してわずか3ヶ月で沙姫は合唱部を辞めた。
人間関係の問題で悩んだ末の結論であった。
私は本当は彼女が辞めたくなかったのを知っている。
彼女に相談された時、痛い程にそれがわかった。
「時間が経つのって早いよね。」
「本当に。」
時間はあっという間に私たちを大人へと追い立てる。
人間関係で悩んだり、くだらないことで涙が出る程笑ったことも、全てみんな過去として過ぎ去っていく。
忘れたくない痛みも喜びも、まるで泡のようにゆっくりと色褪せて、思い出す度に、作り替えられてしまうのだ。
「もう受験生かぁ。憂鬱。」
いつのまにか私たちは、高校最後の夏を迎えていた。
「勉強しなきゃね。」
「浪人は避けたいもんね。」
「夏休みは勉強詰めか−」