事務所に着くと、困り顔のアヤさんが待っていた。

「母さん、ユキト役は誰?」
「大場ユキト君よ」
「やっぱり!」

オーディションの時からそうじゃなかいって思っていたらしい。
名前が役名と同じだから、と琴音。

「ユキト君と琴音は、中学の時から同じクラスだったのよ。昔は同業者で仲良くしてたんだけど……。どういうわけだか、険悪になっちゃったの」
「あいつが僕の仕事にくっついてくるから悪いんだ」

なんだ、意味がわからん……。

「同じ時期に、同じ仕事の取り合いになってね。ほとんどいつも同じ現場で……。向こうの事務所がわざとやってるのかと思ったくらい」
「でも、この世界じゃよくあることでしょう?」
「もちろんよ。文句言ったって始まらないしね」

琴音はため息をつきながら、「主役が良かったなあ」と何度も呟いている。