ーガヤガヤ
あー、煩い。
暑いし。
体育館の中は、熱気に包まれていた。
この時期特有の蒸し暑さ、人口密度。
‥なんだよ、この人数は。
オレはうちわでパタパタと仰いだ。
こりゃ、化粧落ちそうだな。
「蒼、真面目にやんなよ。」
ちょー真面目じゃん。
「へいへい。」
オレと葵は照明係。
桜汰と佐伯は進行係だ。
照明の側とか熱いんだよ。
カツラは蒸れるし。
カツラ被ってるのおっさんの気持ちが、今ならわかる気がするわ。
『次は、1年3組で〈男女逆転!?白雪姫〉です。お願いします。』
あ、次は翠のクラスじゃん。
「葵!
次、翠の番だぜ。」
「あっそ。」
機嫌悪いな、おい。
葵が機嫌悪いのには、もちろん理由がある。
ー5分前に遡る。
「お兄ちゃん!?」
ヤベー、碧だ‥。
めっちゃ笑ってるし。
「あら、似合うわ。
女の子みたいね。」
あやめさんまで。
ねぇ、あなたと、後ろを振り返る。
そこには葵の父さんである、啓(けい)さんがいた。
「あぁ、葵より可愛いんじゃないか?」
「け、啓さん!?」
本人の前で言っちゃ駄目だろ‥。
「真顔で言うなー!」
葵は啓さんに飛び蹴りをしていた。
「だ、大丈夫だよ、葵姉。
葵姉の方が可愛いよ!」
碧、必死過ぎて逆に怪しいから。
「翠の発表始まるから、そろそろ行くわね。」
頑張ってねーと、行ってしまった。
不機嫌な葵を残して。
そして、今に至る。