千尾丸と二人きりになった白露は、無言で山の中を徘徊していた。
もう涙は落ち着いているが、ぼんやりとしていて覇気がない。
見兼ねた狐が話し出す。
「旦那はもう、帰るんですかい?」
「…そうだな…。もう、帰るか…」
「まだ時間はありやすが…」
「いや、帰る」
白露は立ち止まり千尾丸を見た。
「此度(コタビ)もよく付き合ってくれたな。礼を言う」
「いえいえ~。旦那の我が儘には慣れてやす!」
「また来た時も頼む」
「任せて下さい~」
来た時と同様に木々の影に入る白露。
その闇から地獄に戻るのだ。
そのまま帰るかと思いきや、彼は振り返り言った。
「千尾丸、頼みがある」
「何です?」
「白良の墓守りを…頼む…」
千尾丸は一瞬、目を丸くしたが笑顔で答えた。
「任せて下さい旦那!白良の墓は誰にも荒らさせやせん!」
偽りない千尾丸の表情に白露は微笑んだ。
「恩に着る」
そして白露は闇を渡り地獄へと帰って行った。