(悲しい…?悲しい…そうかも知れぬ。この胸の喪失感を、悲しいというのか…)


納得した後で、己の心に問うてみる。


「我は、なぜ悲しいのだ…?」


人間の死など、見慣れているというのに。

やや混乱している彼に、千尾丸は諭すように言った。


「そりゃあ、好きだったからでしょう」


「……………す、き…?」


「はい。旦那は、白良のことが好きだったんですよ。だから悲しいんです。涙が出るんです」


白露が息をのむ音が聞こえた。


「…好、き…?我が…白良を…?」


戸惑いに揺らめいていた金色の瞳が、次第に下りてくるまぶたによって隠された。


(……そうか。そういうことだったのか)


けれど、今更自覚したところで何になる。

白露は自嘲した。


そして目を開き、近くの花を摘み取ると、白良を埋めた土の上にその花を供えた。


「さらばだ…」


墓に背を向け、歩き出す。

未だ止まらない涙を流しながら、鬼は野原を後にした。