穏やかな風が優しく咲き乱れる花々を揺らす。
白露と千尾丸は野原の真ん中に穴を掘り、白良をそこに埋葬した。
(白良…)
埋める前にもう一度、彼女に触れる白露の指。
ゆっくりと頬を撫で、口元に手が行き着いた。
柔らかな、しかし温もりの失せた唇の冷たさが指先に伝わる。
「そなたは地獄には来ないだろう」
ここで永遠に別れることとなる。
彼女の身体に土をかけ、全てが埋まった後――
初めて、鬼は泣いた。
「だ、旦那!大丈夫ですかい!?」
「何がだ」
「な…泣いてやすよ…?」
「泣く…?」
千尾丸に指摘されて気がついた。
恐る恐る己の頬に触れてみる。
「…?なぜだ?なぜ、我は…泣いている?」
泣くつもりなどなかった。
それなのに無意識にこぼれ落ちる涙が、止められない。
「涙ってもんは、悲しい時や嬉しい時に出るもんです。旦那はきっと、悲しいんですよ。白良が死んで……悲しいんですよ…」
泣いてこそいなかったが、白露にそう話した千尾丸の声は震えていた。