「駄目…ですよ…」
「何…?」
彼女は諭すように語りかけた。
「誰かを傷つけるなんて…駄目です」
白露の目が見開かれた。
今まで考えたこともなかった答え。
鬼であり獄卒である己が知らない、「優しさ」という心を持った少女。
何と言い返せば良いのか迷っていた彼に、白良は笑んだ。
「でも、嬉しかったです。助けようと…してくれて…」
彼女を呼んだ声が聞こえていたのだろう。
少女は瞳に涙をためて囁いた。
「ありがとう…白露さん…」
この一言がいけなかった。
人間に感謝されたことなどなかった地獄の鬼。
彼は混乱する思考で組み敷いた少女を見つめた。
動揺する金色の瞳。
己の心が白良の黒い瞳に飲み込まれることを恐れ、彼女から素早く離れる。
「白露さん…?」
耳を赤く染めた鬼は置いてあった被衣をわし掴むと、少女の家から急いで出て行った。