「ねぇ美晴ちゃん。悠貴、ちゃんと会社でうまくやってるの?本当、帰ってきてもゲームするか、テレビ見てるかマンガ読んでるか。本当、高校生のときから変わらないの。あの子が課長なんて未だに信じられないわ。本当三十歳にもなるのにもっと大人になってほしい」


「課長はすごく真面目です。仕事にはとても熱心でちゃんと叱ってくれますよ。それに、ほらあの俳優さんだって三十歳なのに、なんだか子どもっぽいじゃないですか」

冴子さんが口を尖らせて言うから、慌てて否定する。画面に映った俳優さん使っちゃってごめんなさい。


「それに、うちのお父さんだって会社ではダンディで通ってるみたいですけど中身は普通のおじさんと一緒ですし」


お父さんまで引き合いに出してしまった。聞こえてないといいけど、ヤバイ。隣から視線を感じる。しかもかなり強烈な。


今まで家と同じようにテレビに夢中になっていたのに、聞かなくてもいいことはちゃっかり耳に入ってるのね、お父さん。


「アーッハッハッハ。美晴ちゃん面白い。確かにそうね。男の人は女の人よりもガキだし。悠貴より美晴ちゃんの方が年上みたいよね。でも、美晴ちゃんだけよね。悠貴の会社での姿を知っているのも、今みたいにガキなところも両方知ってるの」


それでも悠貴がいい?コソッと耳打ちされた。お父さんをチラリと見るともう視線はテレビに釘付け。お父さん、冴子さんに話したな。


でも、冴子さんも嘘だと分かっても自分の再婚より結婚を優先してくれているんだ。



「・・・はい。最初は仕事で怒鳴られることが多くてどちらかというと苦手でした。だけど知らなかった部分をたくさん見て・・・好きになりました」




テレビの音にかき消されるくらい小さな声で、でもちゃんと冴子さんには聞こえるように、私の気持ちを伝えた。


今はまだ家族ではないけれど、いつかはこの空間にちゃんと『家族』という名前がつけられるように。