そう言って、鞄を持って歩きだす。

男とのすれ違いざまに、腕を捕まれた。


「待ってよーっ」


『なっ、何ですか?
あたし、あなたと知り合う気無いんで…』


ウザいなあー…。
こういう男、ありえない。

あたしに話しかけるなんて、どんな身分か分かってない。


「ちょっと、いい加減にしろ。
俺にー…っ」


『キャッ!』


腕を引っ張られ、顔を近付けられる。

嫌、嫌だ…。
そんなに思うのに、動けない。
体が、固まったみたいに。


『やめー…っ』


「無理矢理しなきゃ、落とせねぇの?」


ドアの近くから、声がした。
途端に、止まる男の顔。

一体、誰の声ー…?


「ってめ、誰だよ?」


さっきまであたしにキスをしようとした男は、声の主に近づいた。

胸ぐらを掴み、殴りそうに…。


「俺?
俺は、武井翔」


「…っ!
お前…っ。
覚えとけよ…」