「萌ちゃん。
バイクどう?」


『風がすっごく気持ちいいですっ』


男が満足したように、前を向いた。
このくらいの単純な男は、暇潰しに十分だ。

そんな事を思いながら、周りの景色を見た。


『あー…っ』


前方に武井翔が見えた瞬間、そう言った。
あいつの隣には、彼女らしき女の子が居た。

何だか悔しくて、あたしは前の男の背中にピッタリくっついた。


「も、萌ちゃんっ?」


焦る男を無視して、武井翔を通り過ぎるのを待つ。

少し通り過ぎた後、あいつを見た。


『ー…っ!』


目が、合ったの。
その途端、胸が騒めいた。

何がショックだったかなんて、分からない。
でも、胸が締め付けられたように苦しかったのは、確かだ。


『…ろして』


「え?」


『下ろして!』


後ろで叫ぶあたしに、混乱する男。

それでもあたしは、叫んだ。


『下ろしてって言ってんのっ!』