『もしもし?
萌ですーっ!
今からちょっと会いたいんだけど…』


甘えた声を出して、寂しそうに呟く。
だいたいの男なら、これで十分落ちるはず。

だって、あたしだもん。


「おっけ!
今から学校行くわっ」


『ありがとっ!
待ってますね?』


プツリと電話を切って、携帯を鞄に入れた。

今のは、昨日駅前でナンパされた男。

寂しくなった。
それだけの理由で、呼び出したの。


『全部、あいつのせい…』


靴箱のドアを閉めながら、そう言った。

武井翔。
あいつのせいで、寂しくなった。

今日会う男が、一度きりになる事は確実だった。
興味なんか、無かったから。


「萌ちゃーんっ」


『こんにちわっ。
後ろ、乗っていい?』


少し顎を引き、上目遣いで尋ねる。

「いいよ」という言葉の後、ニコリと微笑んで。
男のバイクにまたがった。


『単純でバカな男…』


そう呟いた事、男は知るはずもなかった。