「……正直、ショックだった。私に好きって言いながら他の子とキスするなんて、どんな理由があっても理解出来なかった」

「それであのとき、俺のことを信じられないって言ってたんだな……」


 最終的に信じられないと告げて振った理由の核心を理解したらしく、有川くんはばつが悪そうに視線を下に逸らした。

 俯いた頭を見つめながら私は更に続ける。


「信じて、そのあとに裏切られたらどうしようって……。有川くんの行動と言葉がずれているのを見ていたら、そう思えてきて。信じることが怖くなった」

「……うん」

「正直言うと今だって、信じていいのか分からないよ。5年前の気持ちも、今の気持ちも、どっちも本気かどうか不安になる」

「……、うん」


 再び顔を上げて私を見つめていた表情が段々曇っていく。
 先を予測したのか、感情が浮き彫りになっていた。

 私は、真っ直ぐ有川くんを見る。
 有川くんがさっき気持ちを伝えてくれたときのように、芯のある面持ちで。


「――だけど、信じたい。有川くんの本気を、信じてみたい」


 すっと、息を吸い込めば。
 胸の奥が苦しくなって、心臓が静かに動きを早めていく。

 その苦しさは不思議と嫌じゃない。
 切なさを伴うその感情の名前を、私はもう知っている。


「……有川くんが、好き。だから、信じるよ」


 有川くんが私に期待したように、私も有川くんに期待してるんだよ。

 好きだから信じるなんて、都合のいい話なのかもしれない。
 でも、信じてみないと本気かどうかさえ確かめられないから。

 自分が信じてきたものを覆すのはまだ怖いし、踏み出した先でその答えを得られるかも分からない。保証だってもちろんない。

 それでも有川くんを信じた未来を見てみたいって、そう思えるようになったんだ。