……どうやら、有川くんが言っていることは正しかったみたい。

 ものすごい剣幕で突っかかっていた女の人も、有川くんが口を開くほど言葉を失っていった。
 迫力があったはずなのに、今はとても弱々しくて小さく見える。

 図星をつかれて悔しそうに唇を噛み締める彼女に、有川くんはとどめを刺すように言った。
 今日最も低い声で、突き放すように。


「はっきり言って、自惚れすぎなんだよ。ちょっと優しくしたからって、特別だと思うな。自己満足で彼女面されても、ただの迷惑なんだよ」


 有川くんの言葉で、周りの空気が冷たく固まったような気がした。

 言われているのは目の前の女の人のはずなのに、私の方が聞いていて息苦しくなる。

 だって何だか有川くんの言葉は、少なからず私にも当てはまるような気がしたから……。

 別に自分が有川くんの特別な存在だとは思ってはいないけど、彼の優しさに甘えていたのは事実だ。

 意識したことなかったけど、私は彼がくれる優しさに自惚れていたのかもしれない。
 だってときどき、意味のない期待さえ抱いているのだから……。


「……っ、サイテー!!」


 絞り出したような声に反応すると、彼女が強がった表情で有川くんを睨んでいた。

 すると、その直後。


 ――パシンッ!!


 乾いた音が響き、固まっていた空気が揺らされた。


「っ、」

「あんたがこんなサイテーなやつだとは思わなかった! 二度とあたしに顔見せないで!!」


 さっきの音は、女の人が有川くんの顔を叩いた音だった。
 そして女の人は最後に大声で捨て台詞を吐くと、さっさと自分は人混みの中に姿を消してしまった。

 怒りに満ちたヒールの音が早くも遠ざかっていく。

 あっという間の出来事に放心してしまうけど、有川くんが痛そうに頬を押さえたのを見て我に返った。