有川くんは嘲笑するように短く息を漏らすと、冷たく低い声で言った。


「別に浮気じゃねえよ。……だってそもそも俺、誰とも付き合ってねーし。だからおまえにこの子のことをとやかく言われる筋合いはない」


 有川くんがはっきりと告げた言葉に、私も彼女も目を丸くする。

 ……えっ、付き合ってない?
 この人、彼女じゃないの?

 私は何がどうなっているのか分からなくなった。

 確かに目の前の女の人は、以前有川くんと腕を組んで歩いていたあの人だ。しかも私に向かって、浮気相手だと言って怒っている。

 それって明らかに、この人が有川くんと付き合っているから、怒ってるってことだよね……?

 有川くんの顔を覗き見ると、まだあの冷酷な表情で女の人を見ていた。
 わざわざ嘘を吐いてそんな表情をしているとは思えない。

 じゃあ本当に、有川くんはこの人と付き合ってないってこと?

 有川くんの背中の影から恐る恐る女の人を窺う。

 さっきは驚いていたけど、どうやら今は有川くんの言葉を理解したらしい。
 今度は顔を真っ赤にして怒りながら、有川くんに食って掛かった。


「なっ、何言ってるの!? あたしたち付き合ってるんでしょう? ふざけて浮気を誤魔化そうとしたって意味ないんだからね!?」

「ふざけてねえし。つうか、ちょっと遊んだぐらいで勝手に付き合ってることにすんな。それにおまえ、人のこと言える立場か?」

「何がよ!」

「俺、知ってるから。おまえに彼氏がいることも、そのくせ自分好みの男を見つけたら平気で浮気して遊んでることもな。俺だって、たまたま好みだから近付いてきたんだろ?」

「なっ……!」

「俺だっておまえなんて、都合よく遊ぶだけの相手だし。だからおまえが何してようと彼氏がいようと関係ないし、干渉しようとも思わねえ。それに、おまえに俺のこと干渉される必要もない。お互い本気じゃないんだし、それでいいじゃん」


 ペラペラと交わされる内容を、私はただ唖然としながら聞いていた。