……あっ、しまった。

 繋いだままの手から目が離せないまま、背中に嫌な汗が伝う。


「ねえ、何なのその手は!? あんたまさか、智也の浮気相手!?」


 ずいっとさらにこちらに歩み寄りながら、彼女はヒステリックに声を荒げた。

 そのただ事ではない雰囲気に反応して、さすがに通行人も好奇の視線を向けてくる。

 すぐに否定をすれば良かったのかもしれないけど、私は何も言えなかった。

 ……だって確かに、有川くんとはデートをした。
 彼女が居るのに2人だけで会うのもどうかと思ったけど、それでも私は今日有川くんと過ごした。

 ――私が、有川くんに特別な感情を抱いていたから。

 もう誤魔化せないぐらいはっきりと、この気持ちの正体に気付いてる。
 そんな状態でのデートを、浮気ではないと言えるわけがなかった。


 今更弁解しても、私が悪いことには変わりない。

 だけどせめて最後の悪あがきをと思い、慌てて手を離そうとする。

 ……だけど何故か、有川くんは手を離してくれない。
 むしろ強く指を絡めてきて、私の手が逃げないようにしっかりと握り直した。

 そして私の姿を隠すように前に立った。視界からお怒り状態の彼女の姿が消える。

 ……有川くん……?

 行動の意味が分からなくて見上げると、無表情に近い冷めた表情で彼女を見下ろしていた。

 言葉を発していないのに、相手を圧倒するような表情。
 斜め後ろから見ただけで自分には向けられていないのに、その拒絶するような顔に身震いした。

 ずっと何かを喋っていた彼女も、さすがにそれを向けられたら急に黙りこんだ。

 繋いでいる手の温もりだけが、やけに優しく感じられる。