「何でここにっていうのはこっちの台詞なんですけど。今日、バイトがあるから会えないんじゃなかったの?」


 驚いて突っ立ったままの私たちのもとに辿り着いた女の人は、さっきよりも険しい顔つきで有川くんを睨んだ。

 茶髪の大きなウェーブが彼女の胸元で揺れる。
 濃い目のメイクと素足を晒したミニスカートの姿は、中学のときに有川くんの周りに居た女の子たちを彷彿させた。

 ……有川くんって、やっぱりこういうタイプが好きだったんだなあ。

 あの頃から有川くんと噂になるような子は、みんなこういう派手というか垢抜けた人ばかりだったっけ。

 相変わらず地味でパッとしない私とは大違いな女の子。
 そんな人が好みな有川くんがわざわざ私に絡んできたなんて、本当に謎すぎるよ。

 ……まあ、どうせ。
 あの頃耳にしたように、タイプが違う女子と、単に暇潰しして遊びたかっただけだろうけど。

 目の前に広がっているのは、明らかに修羅場になりそうな状況。
 それなのにどこか人事のように感じて余計なことを考えていたら、彼女の視線が私に移った。

 黒く縁取られた目がつり上がっていて、恐ろしい形相で睨んでくる。
 有川くんに向けていたものとは違う敵意剥き出しのそれに、身体がすくまないはずがなかった。


「っていうか! この女誰よ!? あたしにバイトだって嘘吐いて、この女と一緒に居たわけ!?」


 彼女の視線が私を吟味するように突き刺さってくる。

 迫力に負けて言葉を失っていると、彼女の視線が私の顔から下の方へ移った。
 ……有川くんと、繋いだままの手へ。

 私も彼女も、たぶん同時に息を呑んだ。もちろん、別の意味でだったけど。