放課後
「絢ってさ、好きな人とかいるの?」
帰り道、なんとなく絢に聞いてみた。
なんとなくというか、光紀にさっき聞いたら、絢のこと好きって言ったから、聞いたんだけど。
「えっ!何その急な質問っ!」
何ていいながらも、絢は少し顔を赤らめている。
「えー!教えてよー!」
「でも、かなわないから...。」
絢の顔が、一瞬真剣になった。
「え...。何で?」
私は聞き返す。
。
「えっとね、私お姉ちゃんがいたの。」
絢はそう話す。
一瞬疑問に思ったのが、絢が発した言葉が、過去形だったこと。
「姉は、3歳年上だったんだけど、お姉ちゃんには、付き合ってる人がいたの。その彼は、お姉ちゃんより年下で、私と同い年だったの。私と彼が中3の時、私、お姉ちゃんの彼の事が好きだったの。」
そう話したところで、絢の話は途切れた。
そして、道路に雫がおちていく。
それが、絢の目からだというのはすぐに分かった。
。
「絢...。」
「お姉ちゃんは、私の彼への気持ちを知って、彼に別れを切り出したの。
『他に男ができた』って言って。その帰り道、私のお姉ちゃんは、車にひかれて死んだの。不幸な事故だった。飲酒運転してた車にひかれたの。そんな、お姉ちゃんの大切だった人を、好きになんかなれないよ...。」
絢は泣き続ける。
私は何も言えず、ただ、絢にこんなことを聞いたのを後悔しながら、時間だけが過ぎて行った。
これが、何かの分かれ道だったのか...。
私は後になってそう思う。
。
翌日
結局、絢には何の言葉も掛けてあげられなかった。
私の力の無さが、強く感じる。
陸に、相談してみようかな...。
そう思って、6組へと向かう。
。
「相沢君?なんかさっき、裏庭のほうに行ったよ。」
6組の子がそう言う。
私は少し、疑問に思いながらも、裏庭へ向かう。
裏庭に来ると、陸の後ろ姿が見えた。
思わず近づこうとした瞬間、私の足は地面に根でも生えたのかのように、止まる。
陸の向こう側には、絢がいた。
。
なぜ、近づかないのか、私にもわからない。
ただ、どこかで誰かが、私にこう言っているように聞こえる。
「近づくな。」
本能とは逆に、私は思わず彼らの会話に耳を傾ける。
。
「よく、彼女なんて作れたわよね。」
「お前に関係ないだろ。」
...私の事?
「まさか、忘れたとか言わないわよね。」
「んなわけねえだろ。」
「あいつっ...美帆は、他のやつらなんかとは違う。あいつならって思えたんだよ。」
陸は、少し声を荒げる。
「なんなのっ...!?
梨花は、もうそう思うことさえできないんだよッ!?」
「分かってる...。けど...。」
陸はそこで黙りこむ。
。
私は、その時点で、聞くのをやめておけばよかった。
けれど、私は聞いてしまった。
本当はどこかで、分かっていたのかもしれない。
けど__...。
無理だった。
。
「梨花...私の姉が、あなたを振った理由。分かってるんでしょ?」
「...。」
「梨花に少しでも、悪いと思う気持ちがあるなら、美帆と別れてよ。」
「それはッ...。」
「無理なら、私を抱いてよ。
姉があなたと別れた...死んだ理由は、私のためなんだから。」
そのあと、陸がなんて答えたのかは、分からない。
私は、気付かれないように、教室に戻った。
。