新しい一年を迎える今日。

平成26年1月1日。

今年は日の出をこのマンションの最上階に住んでるんだから、

見てやろうと思ってたのに、昨日いや、正確には

今朝の2時まで仕事をしてたせいで、日の出も見れず、

私はお昼まで爆睡していた。

佐伯美緒30歳。有限会社 Orionの専務。

仕事内容はアパレル。洋服のデザイン、販売を行っている会社。

小さいながらでも、それなりに業績を伸ばし、

結構売れてる会社である。



ピンポーン・・・・


気持ちよく眠っていると言うのに、

正月早々誰が家に来たのか?

私の実家は浅草で、夜には帰ると言ってあるので、

両親がうちに来ることもない。

友人たちは、既婚者が大半で、うちに来る者も少ない。

…じゃあ誰?


パジャマのまま、私は目をこすりながら、玄関に向かう。

「…は~い・・・須藤、どうしたの?」

「あ、まだ眠ってたんですね。すみません」


160㎝の私より、はるかに大きい190㎝の須藤蒼空22歳。

スラットしててイケメンの彼は、笑うとえくぼの見える人気者。

そして専務をしてる私の秘書をする私の部下。
「…で、何の用?」

「あ、はい、美緒さんにこれを」

「・・・・?」

蒼空は、私を専務と呼んだことは一度もない。

絶対に『美緒さん』なのだ。なぜか聞いても、応えてくれないんだけど。


差し出された紙に目を落とすと、

「佐伯美緒さん貴女に彼氏が出来るまで、

私は貴女の彼氏代理になります・・・

平成26年1月1日 須藤蒼空(22)」


…私は目を疑った。
「何の冗談?」

この子、バカなんじゃないの?

突然うちに来たと思ったら、彼氏代理人だなんて。

大体、アンタは、私の部下で秘書でしょ?

どこからそんな発想が生まれるんだか・・・

呆れた顔で蒼空を見上げる私。

…でも、当の蒼空は、とても愛らしい笑顔を浮かべている。


「これが冗談に見えますか?」

「・・・」

見える、私には完全に冗談にしか見えない。

でも、笑顔だった蒼空は、いつの間にか真剣な顔になっていて、

それを口にすることは出来なかった。


「この1年間、美緒さんの秘書をしてて思ったんです。

美緒さんには、愛が不足してるんです」


「・・・は?」

・・・何を急に言い出したかと思えば。

愛が不足してる?いいえ、私は愛なんかに飢えてなどいない。

仕事が恋人と言ってもいいほど仕事を愛してる。

大好きな服に囲まれて仕事をする、これほどの幸せが他にあるか?

…きっと私には他にない。そう思える。


「だから、美緒さんが心から愛する人が現れるまで、

この僕が、美緒さんに愛を注ぎます」

「なっ?!」
「だから…はい、出来た」

「・・・ぇ」

…やられた。呆気にとられてる間に、

蒼空が持ってきた契約書に、私の拇印がしっかり押されていた。



「そういう事なので、これからよろしくお願いします」

「ちょ、ちょっと待ってよ!私は契約なんか承諾してないわよ」


「そんな事を言っても、美緒さんの拇印はしっかり押されてます」

そう言って、勝ち誇ったような笑みを浮かべる蒼空。


「もぅ!勘弁してよ。蒼空は私の秘書で部下でしょ?

公私混同されちゃ困るのよ・・・

仕事に障ったらどうするのよ?私はオフィスラブなんて

これっぽっちも望んじゃいない…だからそれ返して」


ピョンピョン跳ねながら、契約書を奪おうと試みる・・・が。

身長差があり過ぎる、私には絶対的に不利な状況。

どんなに頑張って跳ねても、190㎝の蒼空が手を上げてしまえば、

取り返せるはずもない。


「これを返してほしければ、美緒さんの好きな人を見つけてください。

もっと仕事に打ち込めるように、大事な人を見つけてください」


「…今も、十分仕事に打ち込んでるわよ!」


「…でも、最近、デザインが行き詰っていませんか?」
「う``・・・」

痛いところを突かれた。
「愛ってすごいんですよ?」

「・・・何が凄いって言うのよ?」

溜息をつきながら聞き返す。


「うちのOrion社長、多嶋雄一さんをご存知ですか?」

「知ってるに決まってるでしょ?」


「彼は恋多き男性です。だから、今も尚、素敵なデザインの数々が書けるんです。

しかも、そのどの服たちも、すべて人気商品になっている」


「・・・・」

…確かに。うちの多嶋社長のデザインは、

社員のだれもが認めるほどのデザインばかりだ。

でもだからって、恋と仕事は別なんじゃないかな?そう思えてならない。


「愛を疑ってますね?」

「・・・」

…正解、愛なんて仕事には関係ない。


「まぁ、試に僕と付き合ってください。きっとわかります」

「・・・わかりたくない」


「と言う事で、これから初詣に向かいますから、

可愛い格好してくださいね?」

…満面の笑顔。…それに負けてしまった私。

渋々、着替える羽目に。まだ寝ていたいのに。

私の支度が終わるのを、リビングで待っていた蒼空。


「…ダメですね、僕は可愛い格好をしてくださいとお願いしましたけど?」

…ダメだしされてしまった。
「もう、いいじゃない、どんな格好でも」

今日は特別寒いのよ。パンツにハイネック、コートをきれば十分よ。


「今日が初めてのデートなんですよ?」

「?!」

…デート。その台詞を聞いたのは、もう何年も前だ。

仕事ばかりしだす前に唯一出来た彼氏と、数回だけしたデート。

緊張して、どうしていいかわからなくて、いい思い出なんて、

これっぽっちも覚えていない。



「ちょっと失礼します」

「あ?エ、ちょっと!」

寝室に入った蒼空は、クローゼットの中をあさり始めた。

ちょっと、ちょっと、勝手に人のクローゼット漁らないでよ!


「可愛い洋服あるじゃないですか、これに着替えてください」

「ワップ!」

顔に服を押し付けると、蒼空は寝室を出ていった。

・・・何で、蒼空の言うことを聞かないといけないのよ。


ブツブツ文句を言いながら、結局、

蒼空のゴーディネートの服に着替えた私。

なんて、お人好しなんだ美緒?と、自分に問いかけていた。


…ガチャ。

「・・・どうよ?」

・・・恥ずかしい。こんな格好。

ミニスカートに、白のセーター。フェミニンな格好なんて、

もう何年もしていない。

「・・・」

当の蒼空は、何の返事もない。